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22 二人の願い

 ジュニアが消えた後、真美は1人泣いているところを教会の神父に保護された。


 幸い、神父は真美のことを突然の落雷を避けて教会に逃げ込んだ高校生と思ってくれたようだった。


 自宅に帰った真美は、両親がジュニアのことをまったく覚えていないことに気づいた。


 母親は、夕飯を食べながら「どうしてこんなに多く作っちゃったんだろう」と首を(かし)げていた。


 翌日、土曜日。真美は駅前の喫茶店の様子を外から見てみた。


 喫茶店は、何故か窓や衝立(ついたて)、ソファーは壊れておらず、何事もなかったように営業していた。


「真美ちゃん!」


 帰ろうとしていた真美が後ろを振り向くと、あの(いか)つい天使、エノクが立っていた。



† † †



「そうか、そんなことがあったんだな……」


 喫茶店でコーヒーを1口飲むと、エノクがコーヒーカップをテーブルに置いて(つぶや)いた。


「またジュニア君に逢うことは出来るのでしょうか?」


 真美が心配そうな顔で聞く。エノクが腕組みをして言った。


「まあ、ジュニアのことだ。必ず真美ちゃんのところに戻ってくるさ」


「ただ、魔界と人間界の時間の流れは違う。それが明日なのか1年後なのか10年後なのか……」


「そうですか……」


 悲しそうな真美の顔を見て、エノクが尋ねる。


「真美ちゃんはジュニアのことをどう思ってるの?」


 エノクが真美の目を見つめながら話を続ける。


「いくら生まれ変わりとはいえ、真美ちゃんは真美ちゃんだ。ジュニアのことを無理に好きになる必要はないんだからね」


 真美は悩みながら答える。


「私には生まれ変わる前の記憶はありません。初めてジュニア君に会ったときも、契約が取れない可哀想な悪魔だな、くらいにしか思っていませんでした」


「でも、たった一週間程度でしたが、ジュニア君と一緒に過ごしてみると、何だか昔からずっと一緒だったような不思議な居心地の良さがあって……」


「それに、ジュニア君の嬉しそうな姿を見ていると、私も嬉しい気持ちに、幸せな気持ちになれて……」


 真美の両目から涙が(あふ)れた。


「……私、ジュニア君と一緒にいたい。もう離れたくない!」


 エノク先生はソファーから立ち上がると、テーブル越しに真美の両肩に手を置いた。


「大丈夫だ。きっとまた逢えるよ。あいつは、天界にも戻らず、魔界にも染まらず、ずっとずっと君を探し続けていたんだ。万難排して、また戻ってくるよ」


 そう言うと、エノクはぎこちなくウインクをした。


「ありがとうございます!」


 真美は涙を拭きながら、笑顔で(うなず)いた。



† † †



 翌週月曜日、真美が普段どおりに登校し、教室に入ると、明日香が真美の机に走ってきた。目に涙を浮かべている。


「真美! ごめん、ホントごめんなさい。私、真美に、ジュニア君に何てことを……」


「もういいよ。2度と悪魔と契約なんかしないでね」


 真美は笑顔で明日香に言った。


 エノクによると、明日香がマモンに魂を取られることはないだろう、ということだった。


 合理主義者で多数の契約を抱えるマモンが、再度リスクを犯してまで明日香の願いを叶えることは考えられないそうだ。


 マモンの明日香との契約は、履行不能として放置されるだろうということだった。


 不思議なことに、真美は、明日香への怒りがほとんどなかった。正直なところ、もうどうでもよかった。もう一度ジュニア君に逢いたい。それだけだった。


「真美、ごめん、ごめん!」


 明日香が泣きながら真美に何度も頭を下げた。優花が不思議そうにその光景を眺めていた。


 明日香の他、学校でジュニアのことを覚えている人は誰もいなかった。



† † †



 ジュニアがいなくなって半年後、6月。また13日の金曜日がやってきた。


 日付が翌日に変わる直前、真美は勉強机に向かい、ノートに赤ペンで666と書き込んだ。机上の大仏の置物に(つぶや)く。


「ジュニア君と逢えなければ、恨みます」


 その時、後ろから懐かしい声がした。


「呼んでくれてありがとう、悪魔です! 2つ目のお願いをさあどうぞ!」


 真美は後ろを振り向いた。すでに目に涙を浮かべていた。


 真美が振り向いた先には、黒いスーツに黒いマントを羽織ったジュニアが立っていた。ニッコリ微笑んでいる。


 真美はジュニアに抱きついた。


「ジュニア君……私、ジュニア君に逢いたかった……逢いたかった!!」


 真美がジュニアの顔を見た。目から涙が溢れる。


「2つ目のお願いなんだけど……ずっと私と一緒にいてくれない?」


 それを聞いたジュニアが真美を優しく抱きしめた。ジュニアも目に涙を浮かべている。


「それは小生からのお願いにさせてください。真美さん、小生とずっと一緒にいてくれませんか?」


 真美はニッコリ笑った。


「ふふ、私は悪魔じゃないけど、ジュニア君のお願いを叶えてあげる!」


 真美はそう言うと、ジュニアの頬に優しくキスをした。


 ジュニアと真美は、強く抱きしめ合った。


 抱きしめ合う2人を、柔らかな月光が窓から優しく照らしていた。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたなら幸甚です。


また何かお話を思いつきましたら投稿させていただきます。今後とも何とぞよろしくお願い申し上げます。

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