21 戦い③
「さあ、後はトドメを刺すだけだが……」
俯せで倒れるジュニアの前に立ったマモンは、ジュニアのボロボロのブレザーの襟首を掴んだ。ジュニアを引きずりながら真美の前に来た。
「真美ちゃんだったっけ? 君がその結界から外に出て、大人しく俺に魂を差し出せば、ジュニアにトドメは刺さず、魔界に送り返すだけにしてあげよう」
「……本当なの?」
「ああ。叶えなきゃいけない明日香ちゃんのお願いは、君とジュニアを引き離すことと、君とジュニアをメチャメチャにすること。ジュニアを消滅させる必要はないからな」
マモンが笑顔で言った。真美が静かに答える。
「分かった。私はどうなってもいい。だからジュニア君を助けてあげて」
真美はそう言うと、光の壁の外に出ようとした。
「だ、ダメだ! 真美さん……」
ジュニアが意識を取り戻し、苦しそうに言った。マモンが笑う。
「何がダメなんだ、ジュニア。こんなボロボロの姿で、もう出来ることはないだろ?」
「……マモン君、どうしてバラキエル様が『神の雷光』って言われるようになったか知ってますか?」
ジュニアが消え入りそうな声で言った。マモンが不思議そうに答える。
「なんだよ突然。雷を自由に操れたとかか?」
ジュニアがニッコリ笑った。
「半分当たっています。雷を自在に操れる部下がいたからですよ」
「え?」
ジュニアがマモンにしがみついた。ジュニアの頭上に黒く輝く天使の輪が現れる。
「マモン君。流石の貴方も、聖なる雷を受けて無事ではいられないはずです」
その直後、轟音とともに教会の天井が壊れ、空から一条の稲妻がジュニアとマモンを貫いた。
「マジかよ?!」
マモンが叫ぶ。ジュニアはマモンにしがみついたままだ。その2人に何度も雷が落ちる。
「マモン君、明日香さんとの契約は諦めて、魔界にお帰りください!」
ジュニアが叫ぶと同時に、特大の雷が落ちた。激しい雷光に真美は目を瞑った。
† † †
真美が目を開けると、すでにマモンはおらず、ジュニアが仰向けで倒れていた。
「ジュニア君!」
真美が光の壁から走り出て、ジュニアの上半身を抱き起こす。
「ジュニア君、ジュニア君!」
真美が泣きながら何度も声を掛ける。しばらくすると、ジュニアがゆっくりと目を開けた。
「あ……真美さん。マモン君は?」
「もういなくなったよ。ジュニア君が勝ったんだよ!」
「よ、良かった、あのマモン君に勝てるなんて……」
ジュニアが力なく笑った。ジュニアの顔や体が透けて見える。
「ジュニア君、体が!」
「ああ、残念ですが、小生も魔界に戻らざるを得ないみたいですね……聖なる雷は堕天した小生にも堪えました」
ジュニアが寂しそうに言った。真美の涙が頬を伝い、ぽたりとジュニアの顔を濡らした。
真美が静かにジュニアに話し掛ける。
「ジュニア君、私、1つ目のお願いをする」
「え?」
戸惑うジュニアに、真美が笑顔で言った。
「必ずまた戻ってきて……お願い!」
それを聞いたジュニアが、嬉しそうに頷いた。
「はい、必ず!」
いつの間にか、辺りに立ち込めていた霧は消えていた。
真美はジュニアに抱きついた。抱きつく真美を優しく抱きしめながら、ジュニアは消えていった。
「ああ、ジュニア君……ジュニア君!」
真美の泣き叫ぶ声が教会に響き渡った。
次話で完結予定です。




