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20 戦い②

「堕天使?」


 真美が驚いて声を上げた。


 ジュニアは何も言わず、真美から離れると、真美を(かば)うようにマモンの方を向いた。


 マモンが笑いながら話す。


「ははは、何だ、ジュニアも説明が足りてないじゃないか。俺が説明してやるよ」


 マモンがこちらに向かって歩きながら話し始めた。


「大昔、神は人間を監視させるため、グリゴリという天使の一団を人間界に遣わした」


「しかし、あろうことか、グリゴリの天使達は人間達と恋に落ちたんだよ。そして、人間達に様々な知識を与えた」


「神の怒りに触れたグリゴリの天使達は、魔界に追放された。その後、グリゴリの天使達から知識を得た人間を襲ったのは、あの有名な大洪水。そしてノアの方舟っていう流れさ」


「ジュニアは、その追放されたグリゴリの天使の1人だよ。天使、すなわち神の子だから『ジュニア』という訳さ。確か、神の雷光・バラキエルとかいう天使の部下だったかな?」


「よくご存知ですね」


 ジュニアが警戒しながら答えた。マモンが笑う。


「合理的かつ効率的に仕事を進めるには、何よりも情報が大事だからな」


 教会の建物の中程まで進んだマモンが、見えない壁に阻まれた。マモンが金色の銃を取り出して、見えない壁を撃つ。


 4発目で、何かが割れた音がした。マモンは金色の銃を投げ捨てると再び歩き出した。


「グリゴリの天使達の多くは、神に赦しを乞うて天界に戻るか、魔族の一員として魔界に染まっていった」


「しかし、ジュニアはどちらでもなかった。愛した女性の生まれ変わりを探し続けた。そのために悪魔の学校にまで入った」


「堕天してもなお、一途に愛する魂を探し続けるなんて、泣ける話だよな。お前のその美貌があれば、いくらでも新しい女をモノに出来るのに」


 マモンが呆れたように言った。ジュニアの数歩前で立ち止まった。


 ジュニアが声を上げる。


「マモン君に真美さんの魂を渡す訳にはいきません!」


「それは困るなあ。明日香ちゃんのお願いを叶えないといけないし。それに、その子の魂は、きっといい声を出してくれる上玉なんだよ」


 マモンが笑顔で言った。ジュニアが真美に小声で説明する。


「マモン君の一族は、魂を『娯楽用』や『鑑賞用』として一部の魔族に高値で売り渡しているんです」


「学校の研修で一度だけその魔族のパーティーを見学しました。想像を絶する苦痛、恥辱に泣き叫ぶ魂の声が忘れられません……」


 それを聞いたマモンが、愉快そうに笑う。


「ああ、あのパーティー見学か。その魔族って、確かジュニアの元同僚だったんだよな? 普段温厚なお前がいきなりその元同僚に殴りかかったときは、流石(さすが)に驚いたぜ」


「ジュニアの気持ちは分かるが、これはビジネスだ。需要があるから供給する。魂の同意も得ているし、他の悪魔が叶えきれないお願いもしっかりと叶えてあげている」


「まあ、今回は他人のお願いを叶えるためであって、その子のお願いは叶えてないけどね」


 マモンの手に、金色のマシンガンが現れた。それをジュニアに向ける。


「俺はジュニアのこと別に嫌いじゃないんだけどな。悪いが覚悟してくれ」


「ジュニア君、私のことはいいから逃げて!」


 真美が泣きながら叫んだ。ジュニアが真美に振り向く。


「真美さん、決してそこから出ないでくださいね。あと……」


 ジュニアが申し訳なさそうな顔で微笑んだ。


「……この前の小指の約束ですが、すみません。守れないかもしれません」


「ジュニア君!」


 ジュニアは、黒い長槍を手に持つと、黒い翼を広げ飛翔した。



† † †



「ははは、そんな古くさい武器で俺に勝てると思うのか?」


 マモンがジュニアに向けてマシンガンを連射した。ジュニアは飛翔しながら銃弾を避ける。


 ジュニアが長槍をマモンに向かって投げつけた。投げられた長槍は加速しながら凄まじい早さでマモンに向かって飛んで行く。


 マモンが慌てて長槍を避ける。ジュニアの手に黒い長弓が現れた。マモンが体勢を崩した隙に、矢を放つ。


 ジュニアの放った矢は、信じられない早さでマモンの胸に突き刺さった。


流石(さすが)、グリゴリの堕天使。やるじゃねえか!」


 マモンは不敵に笑うと胸に刺さった矢を引き抜き投げ捨てた。マモンの目の前に金色の機関砲が現れた。


「これならどうだ!」


 マモンが機関砲を連射した。飛翔するジュニアに何発かが当たり、ジュニアが木製のベンチに墜落した。


「はははは!」


 マモンが墜落したジュニアに向けて機関砲を連射する。木製のベンチは木っ端微塵になった。


「もう、やめて!」


 真美は叫んだが、その声は機関砲の音に掻き消されてしまった。


 マモンが機関砲の全弾を撃ち尽くした。吹き飛んだベンチの木片の山の中に、制服や翼がボロボロになったジュニアが(うつぶ)せで倒れていた。

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