2 朝食
翌朝。目を覚ました真美は、ベッドで寝返りをうった。
夕べは不思議な夢を見たなあ、と思いたかったが、真美の目の前には、スヤスヤと寝息をたてる悪魔がいた。
悪魔はパジャマを着て三角帽子のナイトキャップを被っている。パジャマはともかく、三角帽子のナイトキャップなんて……実物を初めて見た。
昨晩、悪魔は部屋の床で寝ると言ったので、とりあえず真美はベッドに入って寝ることにした。
しかし、悪魔の「寒い」やら「床が固くて体が痛い」やら不満タラタラの声がブツブツ聞こえて寝られず、結局ベッドで一緒に寝ることにしたのだ。
今考えると、悪魔とは言え相手は男子。同じベッドで寝るなんてどうかしていた。少し気が動転していたのかもしれない。
「おーい、朝だよ」
「……あ、おはようございます。真美さん」
ベッドから起きた真美が声を掛けると、悪魔が目を覚ました。
「おはよう。悪魔くん。そういえば、名前は何て言うの?」
「小生の名前ですか? とりあえずジュニアと呼んで頂ければ」
悪魔もといジュニアがまだ眠そうな声でベッドに寝たまま答えた。ジュニアということは、悪魔にも親がいるのだろうか。
「色々と聞きたいことがあるけど、とりあえず私ご飯を食べてくるから」
「あ、小生も行きます」
ジュニアが慌ててベッドから起き上がり、指をパチンと鳴らした。すると、ナイトキャップを被ったパジャマ姿が昨晩の黒いスーツ姿になった。
真美は、昨晩ジュニアが黒いスーツ姿からパジャマ姿に変身するのを見ていたので、今回は驚かなかったが、ジュニアの発言にびっくりして聞く。
「え、悪魔ってご飯食べるの?」
「はい。美味しく頂きます」
ジュニアが笑顔で言った。真美が困った顔で言う。
「でも、いきなりあなたが現れたら、親が何て言うか……」
「そこはお任せください!」
ジュニアが自信満々に答えた。
† † †
「おはよう」
真美が1階のダイニングのドアを開けた。テーブルでは父親が新聞を読んでいて、母親がキッチンで朝食を用意していた。
真美がドキドキしながら、自分の横に立つジュニアを見る。一体どうするのだろう。
「真美さんのお父さん、お母さん、おはようございます!」
突然ジュニアが元気よく挨拶した。父親と母親が驚いた顔でジュニアを見る。
「だ、誰だ君は?!」
「ま、真美のお友達?!」
「あ、あの、これは、その……」
慌てる真美をよそに、ジュニアが笑顔で答えた。
「やだなあ、お父さん、お母さん。しばらくこの家でお世話になることになった遠い親戚のジュニアですよ」
「親戚のジュニア……ん? あ、そうだったな、ジュニア君。何で『誰だ』なんて言ったんだろ。すまんすまん」
父親が申し訳なさそうに言って笑った。
「そ、そうだったわね。あらやだ、ジュニア君のご飯作ってなかったわ。これから作るわね」
母親が慌てて目玉焼きを作り始めた。
「ありがとうございます。朝ごはん楽しみ!」
呆気にとられる真美をよそに、ジュニアは嬉しそうに席に着いた。
† † †
「真美さんのお母さんのご飯、美味しかったですね。ついつい、おかわりしてしまいました」
朝食後、真美の自室に戻ったジュニアは、満足そうに言った。
真美がジュニアに聞く。
「ねえ、さっきのあれはどういうことなの?」
「あれはなんと言うか……一種の催眠術的なアレです。健康に直ちに影響はありませんのでご安心ください」
ジュニアがニッコリ笑って答えた。「直ちに」が若干気になるが、とりあえず真美は話を続ける。
「まあ安全ならいいんだけど……さっき『しばらくお世話になる』とか言ってたけど、ジュニア君はいつまでここにいるつもりなの?」
「真美さんがお亡くなりになるまでですね」
ジュニアがとんでもないことをサラッと言った。
「え、一生?!」
「あ、でも例外はありますよ」
「例外って何?!」
食い気味で聞いてきた真美に戸惑いながら、ジュニアが説明する。
「小生が複数の人と契約できれば、それらの人の所へも顔を出すことになりますので、真美さんの所に毎日いることはなくなります」
「それだ! ジュニア君、早くどんどん契約してきて!」
「真美さん、それは無理ですよ。小生は今まで1件も契約が取れなかったんですよ。そう簡単に新規契約なんてできませんよ」
ジュニアが何故か自信満々にそう言うと、ベッドに向かった。
「さてと、小生はもう一眠りさせて頂くとしましょうかね……」
真美がベッドの前に立ち塞がった。
「ダメ! ジュニア君、これから新規契約に向けた作戦会議よ!」
真美が真剣な顔でジュニアにそう宣言した。