19 戦い①
「ジュニア君?!」
突然ジュニアに押し倒され、真美が驚いて声を上げたが、バンッという大きな音に掻き消された。
ジュニアの肩越しに、真美が座っていた席の後ろの衝立が目に入った。小さな穴が空いている。
「ははは、よく避けたなあ!」
マモンが笑った。いつの間にか金色の拳銃を手にしていた。
マモンが倒れ込んだジュニアの背中に向けて拳銃を発砲した。
ジュニアは黒い翼を出して身を隠し、真美を抱きしめたまま動かない。
「はははは!」
マモンが笑いながら拳銃の引き金を引き続ける。
マモンの拳銃が弾切れになった。ジュニアは真美を抱きしめながら黒い翼で真美を覆い隠すと、喫茶店の窓を突き破って外に飛び出した。
喫茶店の外は、何故か霧が立ち込めていた。人の気配がない。
ジュニアは真美を抱えたまま誰もいない駅前の通りを飛んだ。
眼下には、霧が立ち込めた無人の街が広がっていた。
「真美さん、怪我はないですか?」
ジュニアが真美に優しく声を掛ける。
「私は大丈夫。でも、ジュニア君が、ジュニア君が……」
真美が泣きそうな顔でジュニアに言った。ジュニアがニッコリ笑う。
「あれくらいなら、小生は大丈夫です。結構痛かったですが」
そう言うと、ジュニアが右手を真美に見せた。手には弾丸が数発握られていた。
ジュニアは弾丸を投げ捨てると、真美に言った。
「マモン君は多数の契約を抱えていて多忙です。明日香さんの件は、一気にカタをつけることにしたのでしょう。戦いは避けられません」
「あそこで待ち構えましょう」
そう言うと、ジュニアは駅前の教会に飛んで行った。
† † †
ジュニアと真美は、教会の前に降り立った。ジュニアの背中から黒い翼が消える。教会の周りにも霧が立ち込め、人影はなかった。
ジュニアが入口のドアを開けた。
教会は長方形で奥に長い。天井は高く、アーチになっている。両壁の上方には明かり取りの窓が並んでいたが、霧のせいで薄暗い。
手前には木製のベンチが並び、奥の正面には十字架とキリストの美しい絵画が見えた。その手前には祭壇が設けられている。
ジュニアは、真美を連れて祭壇の前まで進んだ。真美を祭壇の前に立たせると、十字架に祈るように目を閉じ、指を3回鳴らした。
真美の周りに輝く光の壁が現れた。この前の時よりも強く輝いている。
「小生渾身の悪魔祓いの結界を、建物の内外と真美さんの周りに張りました。しかもここは教会。流石のマモン君も、すぐには入れないでしょう」
「真美さん、こんなときにアレですが、話しておきたいことがあります」
ジュニアが真面目な顔で言った。
「ど、どうしたの? ジュニア君?」
真美が聞く。ジュニアが真美の両肩に手を置いた。
「すみません。小生は嘘をついていました」
「え?」
「小生が契約を取れない理由です」
ジュニアが優しく微笑んだ。
「小生が契約を取れない本当の理由……それは、ただ1人の女性を、魂を探し求めていたからなのです」
ジュニアが真美を優しく抱きしめた。何故か真美の目から涙が溢れる。
「あ、あれ? どうして……」
「遥か昔、小生はある女性と恋に落ちました。その女性は心の優しい方でした。その魂はとても美しかった」
ジュニアは目に涙を浮かべながら話し続ける。
「その女性は天災で命を落としてしまいました。彼女の魂はどこか別の時代、別の場所で生まれ変わりました」
「ですが、小生はその女性のことを忘れられませんでした。その女性の生まれ変わりを探し続けました」
「そして、遂に、遂に見つけたのです。彼女の魂を、彼女の生まれ変わりを……」
その時、ジュニアの背後で、教会の入口のドアが開く音がした。
「お別れは済んだかな? グリゴリの堕天使くん」
ドアの向こうから、マモンが現れた。




