17 敵対者
天使のエノクに相談した日の夜。真美の自室。いつものように真美がベッドに胡座をかいて、布団で漫画を読むジュニアに聞く。
「ねえ、喫茶店を出た後の話だけど、マモン君って強欲なの? この前会ったときは、そんな風に見えなかったけど」
「はい、マモン君自体は爽やかな人当たりのよい悪魔ですが、彼の一族は昔から『強欲』『富・財産』を司るとされている名門の悪魔なんです」
「まあ、何と言いますか、『強欲』は屋号みたいなものですかね」
「ふーん」
ジュニアの分かるような分からないような説明に、真美はとりあえず頷いた。
「黒幕がマモン君であれば、ウコバクさんが小生の悪魔祓いの結界を突破したのも納得できます。きっとマモン君が手引きしたのでしょう」
ジュニアが漫画のページをめくりながら話した。真美がジュニアに聞く。
「でも、どうしてマモン君が私を狙うの? 私にそんな価値はないと思うんだけど」
ジュニアが漫画から目を離して真美の方を向く。
「マモン君は、真美さんにそれだけの価値を見い出しているんです」
「おそらく、明日香さんが真美さんの排除をマモン君にお願いしたのでしょう。それを理由にして、マモン君は真美さんの魂を手に入れようとしている……」
「私の魂を?」
真美が驚いてジュニアに聞く。
「ええ、そうです。いずれにしても、明日、それとなく明日香さんに探りを入れる必要がありますね」
ジュニアが漫画を本棚に片付けながら言った。真美が心配そうに聞く。
「明日香は悪魔との契約を隠してるんでしょ。探りを入れるのは難しいんじゃない?」
「ご安心ください。小生に策があります」
ジュニアが笑顔でそう言った。
† † †
翌日。登校して教室に入ったジュニアは、机に荷物を置くと、つかつかと明日香のところへ歩いて行った。
「おはようございます。明日香さん」
「お、おはよう。ジュニア君」
驚いた様子で明日香が答えた。ジュニアが笑顔で話を続ける。
「最近、明日香さんは何か悩みごとがあるんじゃないですか?」
「え? そんなことないけど……」
不思議そうな顔をする明日香に、ジュニアがニッコリ微笑んだ。
「ご自身が気づいてないだけかもしれません。小生が占ってあげましょう」
そう言うと、ジュニアが右手の掌を明日香の前に出した。
「明日香さん、掌を小生の掌に合わせてもらえますか?」
「う、うん。いいけど……」
明日香がジュニアと手を合わせた。すると、バチッと火花が散った。
「な、なにこれ!?」
明日香が慌てて手を離した。ジュニアが顔色を変える。
「明日香さん、あなたは何か悪いモノに取り憑かれています。このままでは危ない」
「悪いモノ?!」
「そんな訳ないじゃん。これ、何かの手品?」
明日香の取り巻きが驚きつつ笑ったが、明日香本人は無言のままだった。
「今日の放課後、明日香さん空いてますか?」
ジュニアが真面目な顔で聞く。
「え、ええ。空いてるけど……」
明日香が戸惑いながら答えた。ジュニアが笑顔で言う。
「良かった。それなら駅前の喫茶店で少しお話しませんか?」
「なにそれ、デートのお誘い?」
明日香の取り巻きが囃し立てた。ジュニアがニッコリ微笑む。
「小生、明日香さんのことが気になってしまいまして。いかがですか?」
「ふーん。別にいいよ」
明日香が少し嬉しそうに答えた。




