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16 相談②

「で、悪魔のお前が私に何の相談だ?」


 ものの数分で喫茶店に到着した(いか)つい天使、エノクは、テーブル席のソファーに座るなりジュニアに聞いた。


 エノクの向かいに真美と並んで座るジュニアが、慌てて弁解する。


「あ、ま、真美さんがエノク先生にどうしても相談したいと……」


「バカもん! 契約更改は悪魔側の話であって、真美ちゃんが相談する内容じゃないだろう。悪魔が私に相談してどうする!」


「す、すみません!」


 ジュニアが慌てて頭を下げた。


 エノクは、ため息をつくと、店員を呼んでホットコーヒーを3つ頼み、改めてジュニアに聞く。


「で、何があったんだ?」


 あ、話は聞いてくれるんだ、と真美が心の中で思っていると、ジュニアが話し始めた。


「エノク先生がお察しのとおり、一昨日の夜から、急に契約更改を狙う悪魔が増えてきたんです」


「私は何も察しとらんぞ」


 エノクはジュニアの言葉を言下に否定したが、少し心配そうな顔をしていた。


 ジュニアが話を続ける。


「昨日の夕方なんか、あのウコバクさんがいきなり襲ってきまして……」


 昨日のフライパンのようなものを持ったバーコードおじさんは、ウコバクという名前らしい。


 それを聞いたエノクが少し驚いた顔をした。


「ウコバクが? アイツが地獄の釜を離れるなんて珍しいな」


「そうなんです。たまたま契約を横取りするという感じではなく、明らかに真美さんを狙って来ているんです」


「ふむ……」


 エノクが腕組みをして何やら考え込んだ。ちょうどコーヒーが3つ届き、ジュニアが急いでエノクと真美にミルクと砂糖を配る。


 ちゃんと前回の言いつけを守ってるんだ、と思うと真美は思わず笑いそうになった。


 エノクがコーヒーにミルクと砂糖を入れながらジュニアに聞く。


「で、お前のことだ、何か目星がついてるんだろ?」


 ジュニアが真剣な顔になって答える。


「真美さんと同じクラスの村下明日香さん。彼女と契約した悪魔は誰なのか、エノク先生はご存知でしょうか?」


 エノクは答えない。真美が驚いてジュニアに聞く。


「ね、ねえ、ジュニア君。明日香がどうかしたの?」


 ジュニアが神妙な顔をして答える。


「どうやら、明日香さんは悪魔と契約をしたようなんです」


「え? 明日香が?!」


 ジュニアがコーヒーに砂糖とミルクを入れながら答える。


「はい。通常、悪魔と契約した者はすぐに分かるのですが、何故か明日香さんの場合は巧妙に隠されていました」


「今日、明日香さんと近くで話をして、ようやく(かす)かに感じ取れたレベルです」


 ジュニアがスプーンでコーヒーをかき混ぜながら話を続ける。


「ここまで巧妙に悪魔との契約を隠すことができるのは、相当な力のある悪魔だけ。それでも、一時的に隠蔽することしかできません」


「その一時的な隠蔽をあえて学校で行った。そして、校内で悪魔と契約しているのは、明日香さんの他に真美さんだけ……」


「……真美さんや小生に何らかの敵対的な行動を取るために隠蔽したのではないかと思いまして」


 ジュニアがコーヒーを飲んだ。3人はしばし無言になった。


 コーヒーを一口飲んだエノクが、静かに話し始めた。


「仮に私が明日香ちゃんの契約相手を知っていたとしても、立場上答えられない」


「……承知しております。こんなことを聞いてしまって申し訳ありません」


 ジュニアが(うつむ)いた。エノクがコーヒーの残りを一気に飲むと、テーブル席のソファーから立ち上がった。


「お前は相変わらず()()だなあ。()()()()()()()()にもそう言われてるんじゃないか? ()()()()()()()()!」


 そう言うと、エノクが真美の方を向いて優しく話し掛ける。


「真美ちゃん、()()()()()は格下の悪魔を使って悪巧みをすることがあるから気をつけてね。また何かあればいつでも連絡しなさい」


「ありがとうございます!」


 真美は立ち上がって頭を下げた。



† † †



「結局教えてもらえなかったけど、向こうも立場があるし、まあ仕方ないよ」


 喫茶店を出た真美は、ジュニアを慰めるよう優しく話し掛けた。


 ジュニアが何故か嬉しそうに答える。


「いえ、やっぱりエノク先生は優しい方です。ヒントをいっぱい貰えました」


「え、ヒント?」


「はい。真美さんは、エノク先生の帰りがけの言葉を覚えていますか?」


「うん。確かジュニア君のことを『強欲』とか何とか……」


 真美が思い出しながら答える。


「そうです。『強欲』『悪魔の学校の級友』『気をつけるように』」


 ジュニアが、目を輝かせながら続ける。


「そして『名門の悪魔』……これらに該当するのは、1人しかいません」


「マモン君です」


 その名前を口にするとき、ジュニアが緊張したのが分かった。

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