14 約束
家に帰り着いたとき歩くのもやっとだったジュニアは、夕飯を食べると途端に元気になった。
いつものように、真美が風呂に入っている間、ジュニアはリビングで父親とバラエティー番組を観て、真美の次に風呂に入ると、パジャマ姿で真美の自室に入って来た。
「ジュニア君、もう大丈夫なの?」
ベッドの上で胡座をかいた真美が、心配そうにジュニアに聞いた。
ジュニアが笑顔で答える。
「はい、美味しいご飯を食べて、面白いテレビを観て、お風呂でサッパリしましたので、もう元気いっぱいです!」
「良かった……それにしても、今日のあのフライパンみたいなものを持ったバーコードおじさんは一体何なの? あとジュニア君のトイレとも関係があるの?」
真美が真剣な表情で聞いた。ジュニアは掛け布団をめくり上げて敷き布団の上に正座すると、真面目な顔になって答える。
「はい。昨晩から急に契約更改を狙ってくる悪魔が増えまして……」
「契約更改?」
「ええ。1人の人間が契約できるのは1人の悪魔だけになります」
ジュニアが、両手の人差し指を立てながら話を続ける。
「そのため、他の悪魔が契約済みの人間と新たに契約するためには、契約済みの悪魔を倒す必要があるんです」
ジュニアが右手の人差し指を下ろすと、右手の親指を立てて、左手の人差し指に合わせた。
「いくら真美さんが美しいとは言え、ここまで多くの悪魔が契約更改を狙ってくるなんて、聞いたことがありません……」
ジュニアが腕組みをしながら首を傾げた。真美が少し照れながら聞く。
「美しいかどうかは別にして、昨晩や授業中にジュニア君がいなくなったのは、他の悪魔と戦ってくれてたの?」
ジュニアが頭を掻きながら答える。
「真美さんに心配かけないように、隠れて魔界に追い返していたのですが、さっきは小生の結界を破って入って来られたもので……」
「結界?」
「はい。真美さんの周りには小生が悪魔祓いの結界を張っているので、普通の悪魔であれば入って来れません」
ジュニアが胸を張った。悪魔が悪魔祓いを出来るんだと不思議に思ったが、真美が聞くより早くジュニアが話を続けた。
「ですが、先ほどの悪魔は、マモン君同様、易々と小生の結界の中に入って来ました。こんなことは予想外です」
ジュニアが一転して肩を落とした。真美がベッドから立ちがってジュニアの目の前に正座した。
「そうなんだ……まあジュニア君がいてくれたら何とかなるでしょ」
「真美さん……」
ジュニアが嬉しそうな、少し申し訳なさそうな顔で言った。
真美が笑顔で言う。
「私、ジュニア君を信じてるから安心だよ。ただ、ひとつだけ約束して?」
真美が右手の小指をジュニアに向けた。
「な、何でしょうか?」
ジュニアが緊張した顔で聞く。
「私、絶対にジュニア君以外の悪魔とは契約しないから、もしジュニア君が危険になったら、ジュニア君の命を第一に考えてね」
「相手の悪魔は契約目的なんだから、私には危害を加えないでしょ。ほら、指切りげんまん」
「ま、真美さん……ありがとうございます!」
ジュニアが泣きそうな顔で言った。ジュニアが続けて聞く。
「この小指は、何かの儀式ですか?」
真美が笑いながら言う。
「ふふ、約束の儀式よ。お互いの小指を絡ませるの」
「分かりました。小生、約束します!」
ジュニアがニッコリ笑って真美と指切りげんまんをした。




