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12 街中の霧

「はあ、サッパリしました。それにしても今日は焦りましたよ」


 夜、風呂上がりのジュニアが真美の自室に入って来るなりそう言った。


「ジュニア君の慌てよう、見てて面白かったよ。あの天使さんとはよく会うの?」


 真美がベッドに寝っ転がりながら言った。


 ジュニアが昨日読んでいた少女漫画の続きを本棚から取り出しながら言う。


「はい、色々とご縁がありまして。昔から怒られてばかりです」


「ふふ、まるで先生と生徒みたいね」


 真美が笑いながら言った。


 ジュニアも一緒に笑った後、急に真面目な顔になった。


「それにしても、今日は本当にありがとうございました。小生は真美さんを大切にします!」


 そう言うと、ジュニアは深々と頭を下げた。


 真美が少し照れながら言う。


「そんなに畏まらなくても……でも、そう言ってくれて嬉しいよ」


 ジュニアが頭を上げた。嬉しそうに真美を見つめる。真美は少し恥ずかしくなって、慌ててアクビをするふりをした。


「天使さんとのやり取りで疲れたかな。それじゃ、おやすみ」


「おやすみなさい、真美さん。小生はもう少しこの漫画を読んでから寝るとします」


 ジュニアが笑顔で言った。



† † †



「おはよう、ジュニア君」


「あ、おはようございます。真美さん」


 翌朝、目を覚ました真美がジュニアに声を掛けると、眠たそうな声でジュニアが答えた。


 真美は、ベッドから起き上がって背伸びをしながら、昨晩気になったことをジュニアに聞く。


「そういえば、ジュニア君、夜トイレに行った? 布団にいなかったけど」


 真夜中、ふと目が覚めた真美が何気なくジュニアの布団を見ると、ジュニアがいなかったのだ。


 結局、真美はジュニアが戻って来るまでに、いつの間にか眠ってしまったのだが……


 ジュニアが布団から起き上がりながら答える。


「小生はずっと布団で寝てましたよ。真美さん、寝惚けてたんじゃないですか? さて、ご飯ご飯っと……」


 ジュニアは指を鳴らして学生服姿になると、そそくさと部屋を出ていった。


 その日、学校の現代文の授業中、楽しそうに授業を受けていたジュニアが突然立ち上がった。


「先生、トイレ!」


「先生はトイレじゃありません」


「すみません。小生がトイレです!」


「何かちょっと違うけど……ほら、早く行って来なさい」


「ありがとうございます!」


 そう言うと、ジュニアは教室を走り出て行った。


 ジュニアが戻って来たのは授業の終わり頃で、何故か汗だくだった。


 休憩時間に、男子が笑いながらジュニアに聞く。


「おーい、ジュニア。そんなに汗だくになるなんて、一体トイレで何してたんだよ」


「思ったより手強い相手でして……」


「ははは、なんだよそれ。ちゃんと野菜食べろよ」


 などと男子の笑いを誘っていた。



† † †



「ねえ、ジュニア君、お腹の調子悪いの?」


 学校の帰り道、駅から自宅に向かう路地で、真美が並んで歩くジュニアに聞いた。


 今日、ジュニアは休憩時間も含めると、3回もトイレで長時間席を外したのだ。人間界の食事は悪魔に合わないのだろうか。


「あ、はい。何回かトイレに行く必要がありましたが、今は元気一杯です」


 ジュニアは笑顔で答えたが、明らかに疲れ顔だった。


「具合悪かったら無理せずに休んでね」


「ありがとうございます。真美さんは優しいですね」


 心配そうな真美に、ジュニアがニッコリと笑った。


 その時、突然辺りに霧が立ち込めてきた。周りにいたはずの通行人が見えなくなる。


「え? こんな街中に霧?」


 不思議そうに辺りを見回す真美に、ジュニアが真剣な顔で話し掛ける。


「真美さん、緊急事態です」


 そう言うと、ジュニアがパチンと指を鳴らした。真美の周囲に明るい光の壁が現れる。


「え、何これ?」


「説明は後です。そこから決して外に出ないでくださいね」


 ジュニアが真美に優しく声を掛けると、真美に背中を向けて、真美の前に立った。


「……何だ、ヒヨッコ学生か。この女との(ちぎ)りは俺様が貰い受けるぞ。さっさと立ち去れ」


 どこからか不気味な男の声が聞こえてきた。


「真美さんは渡しません!」


 ジュニアが叫ぶ。いつの間にかジュニアの右手には黒い長槍が現れていた。

続きは明日投稿予定です。

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