つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
クラスの美少女委員長が文化祭のシフト入りすぎて大変そうなので「代わろうか?」と訊いたら、「君に代わってもらっても意味ないんだよね」と言われた。仕事ができない人だと思われているので仕事ぶりを見せつけます
文化祭。僕の予定を簡単に表すなら暇だ。簡単ってか一文字で表せてしまった。これは素晴らしいことだが、それはそれとして経緯を説明したい。
あの、別にやる気がなかったわけではない。
普通なら、クラスで模擬店とかして、その店員やらスタッフやら調理担当やらで文化祭当日忙しいでしょ。
部活で出し物するとしてもそれぞれみんな忙しいわけ。
でも僕の部活は文芸部でただ部誌を置いとくだけ。
さらにクラスでは映画を撮ったんだけど、それも当日は上映するだけ。
だから当日暇なわけよ。
しかし、クラスで唯一、暇でない人がいた。
美少女委員長と有名な、浜野萌である。
浜野は映画の受付のシフトの半分を一人で引き受けている。どうせすることないから私やるねって言ってそんなにシフトを入れてしまったのだ。
僕なんて一時間だけなのに。
浜野はあんまり人を頼らないところがあるから偏りが起きてるんだ。
クラスのみんなはなんだかんだで文化祭遊んで過ごしたいから、まあ浜野がそう言うならそれでいっか的な雰囲気がある。
だが僕は浜野が頑張りすぎてないか心配だった。
ので提案してみた。
「浜野」
「ん? どうしたの?」
「いや、あの文化祭のシフトのことなんだけど、浜野に結構負担が集中してるじゃん」
「ああ、いいよ全然あのままで」
「でも、僕めちゃくちゃ暇だからさ、代わるよ」
「あー、いや大丈夫ほんとに。それに……君に代わってもらっても意味ないんだよね」
「えっ」
なんだって。予想外に僕は信用されてなかったことが判明。
こうなったら、仕事ぶりを見せつけるしかないね。
☆ ◯ ☆
「君、手早いねー」
「だろ。だから僕に安心して受付を任せてくださいな」
放課後。僕は受付の看板と、上映時刻をマグネットで貼る掲示板をパパッと作ってみせた。
ふふ、これだけやれば僕を信用するだろう。
だけど浜野は何故か考え込んで、僕のシフトを増やすことはしなかった。
冷静な浜野の考えていること、全然予測が立たないぞ。
☆ ◯ ☆
「ママ……絶体絶命だよお」
「あんたそのポンコツさでクール系委員長してるのほんとすごいね」
「別に学校でどう振る舞おうがいいでしょ?」
「そうだけど、でも結局不器用で好きな人とどうやっても文化祭一緒に回れそうにないじゃない」
「うん……」
「けど、私的には作戦があるよ」
「ほんと?」
「うん。私の方が長く生きてるんだからね。お母さんが教えてあげましょう」
☆ ◯ ☆
次の日、僕は真剣な顔の浜野に話しかけられた。
「やっぱり文化祭当日、君に仕事を任せてもいいかな?」
お! 来ましたよ?
「私の代わりじゃなくて、受付を二人にしたいと思うの。つまり追加の仕事ね」
「なるほど、てことは…」
「主に私と二人で受付をすることになるね」
「理解した。けど……結局浜野のシフトは減ってないけど、それでいいのか?」
「うん、大丈夫」
なかなか力強くうなずいた浜野。やっぱり自分でなんでもやっちゃうタイプだ。
☆ ◯ ☆
そして文化祭当日。廊下に並んだ二つの椅子に、僕と浜野は座っていた。
「意外と、暇だな」
「思ったよりお客さん来ないね」
「うん。俺一人でも大丈夫そうだから、今度こそ……」
「やだ」
「や、やだ?」
「だって、それだと意味ないんだもん」
「意味?」
どうやら僕の想定している「意味」と、浜野の使う「意味」が違うっぽい……?
と、気づきつつあった僕に今までで一番浜野は近づいて……
「だって私はね、君と一緒に居たいんだもん」
上目遣いで見つめてきた。
それで僕は……
はい。もちろん落とされました。
☆ ◯ ☆
☆ ◯ ☆
10月になると暗くなるのが早いと感じるのに、娘が帰ってくる時間も遅くなる。
「ただいまー」
「おかえり。文化祭準備大変そうねえ」
「うん。まあ、クラス委員長だしね」
なんだかんだ私と似たふうに育った娘だけど、靴を揃えないところとかは夫と同じ。
あとすぐに気分が顔に出るところとか。
「何か悩んでるね?」
「わかるの?」
「わかるよ。よかったらお母さんに話してよ」
「あのね、色々とあって好きな人とどうやっても文化祭一緒に回れそうにないの」
「あらら」
「ママ……絶体絶命だよお」
「けど、私的にはたぶん作戦があるよ」
「ほんと?」
「うん。私の方が長く生きてるんだからね。お母さんが教えてあげましょう」
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