バランス
男の素性動向の資料を再び読む。
ここ何週間か実際に尾行したり、観察したりしていた。
まただ!聖人なのコイツ!?
もう「この人」って言おう。
今日はお婆ちゃんの荷物を持つのを手伝ってる。
しかもこの人の職場とは逆方向に出る地下鉄出口まで。
遅刻しちゃうぞ~と思いながら、その場を立ち去った。
「あら?! どうしたの? こんな早い時間に珍しいわね。」
女は来た所なのか、上着を掛けてるところだった。
いやちょっと確認なんだけど、ホントにこの男で間違いない??
俺は資料の写真を見せた。
「そうよ。今月中って依頼よ。何!? 簡単でしょ、行動パターンも解ってるし。
普通の害のない相手だし。」
まあ何て言うか、害なさすぎるっていうか。
良い奴なんだよ。明らかに良い人なの。
「それで?? 仕事にそんな事関係ないでしょ!? 受けた依頼をこなす。
ただそれだけじゃないの? そんな事言うなんてヒヨったんじゃない!?
それとも罪悪感でも湧いたの?」
何かムカつくけどいいや、確認だよただの。
間違いじゃなかったらそれでいいんだ。
じゃあやってくるよ。
「何よ変ね、早く終わらせられるんだったらそーして頂戴。
今回の依頼人は胡散臭い感じするし。」
何でだ?!
「報酬払いが悪いのよ。前金だけ払って後はちゃんと終わってからだって言うのよ。
私たちのルールを事前に伝えてたんだけどね。ゴネたのよ。」
何だそりゃ!? 何でそんな仕事受けたんだよ??
断ればよかったじゃねぇか。人を殺してください、お金は分割でってロクでも無い奴だろ。
「紹介された相手がね、断り辛い相手だったのよ。安心して。もうこの相手とはこれっきりだから。」
いやいっその事断って欲しかったなぁ~と思いながら、
行ってくると事務所を出た。
やはり良い奴だ。この人、いや「この方」に格上げだ。
今日は迷子のガキを交番まで連れて行ってた。
それで終わればいいのに、付き添ってガキを慰めてスマホで何か見せて笑顔にしてる。
こんな方を始末したいなんて、絶対ロクでもない依頼人だ。
世の中間違ってるよな。善が狙われて悪が生き残る。
俺は自分が悪だと自覚してるが、必要悪と思っている。
こないだはレイプされた相手が依頼人だった。復讐だったんだろうな。
毎回そんな仕事なら良いんだが、これも仕事には変わりない。
俺は溜息をついて機会を待った。
女が一人で悪態をついていた。
「終わったの?! お疲れ様。コーヒーでも入れるわ。」
女は立ち上がり、お湯を用意する。
何??珍しい!! 逆に怖いんだけど。
「依頼人がね、殺されたの。誰かに恨みでも買ってたのね。
胡散臭いとは思ってたけど。世の中の為には殺されて良かったんでしょうけど、
残りの報酬は無理ね。死ぬのは勝手だけどこっちは半損よ。
やっぱりルールは厳守しないと駄目ね。今回は私の落ち度よ、ごめんなさい。」
と入れたコーヒーを持って来てくれた。
それは、、、、仕方ないな。
死んじゃったんだから。仕方ない、うん。
「やけにあっさりしてるわね?! 損したのに。」
今日のコーヒーは苦くない。
俺はニヤて飲んだ。
やはり世の中こーでなくちゃな。
短文です。
不定期更新ですが、二人のやり取りをお楽しみ下さい。
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