路地裏の圏外 ~フォルスネス 黒雲の剱~
本作は『フォルスネス ~果てしない旅~』第13話の別視点です。そのため、第13話の冒頭から物語が始まります。
ここまでのあらすじ。それぞれ2個の宝玉を入手したオズ組とカケル組。争奪戦で勝ったチームが全ての宝玉を得る条件で、勝負を行う。オズの目論見として、ゴールの立会人として国王を指定し、僅差でゴールすることで代理人では無く国王本人が判定を行うため、表舞台に出てくるように仕向けたが、失敗した。
手紙をポケットに仕舞い、広場の中央へ戻る。計画通りなら国王が勝者を決定するはずだが、運営の人物が横に並び壮行式で国王の代理人として激励の言葉を述べた人物が出てきて、
「宝玉争奪戦はカケル組の勝利とする!」
抗議する暇もないまま、勝者の宣言がなされ締めくくりの閉会式へと移行する。
宮殿前のこの広場にて整列を促し、代理人が宝玉をカケルにすべて託す。
*
前列にカケル組。後列にオズ組。その10メートルほど後ろの方には、親御さんやこれを見に来た国民が大勢いる。特設のステージに国王の代理人が閉会式の執り行いを宣言。ステージから”C.P.”まではざっと6メートル。地面からステージの高さは1メートル強。登れないことはないが、両端の階段を使うほうが賢明だ。
リカードの総評が終わり、お祝いの言葉や保護者代表挨拶など一頻り終えると、宝玉の奉納を行うことに。
「では次に宝玉の奉納を行う。勝者であるカケル組は壇上へ」
閉会式進行者に言われ、カケルが4つの宝玉を手に持ち壇上へ。同時に、とあるオブジェクトがステージの上に運び込まれる。宝玉を埋め込むオブジェクトだと思われるが、下からだとよく見えない。何かの像があり、その台座に埋め込むのだろう。
国王代理人がそのオブジェクトの説明をするがマイクが入っておらず聞こえない。女神とか聞こえたけれど、女神像だろうか。その肝心の女神像を僕はまだ見たことがないのだが。
マイクがオンになり国王代理人が
「では、この女神像の台座に宝玉を」
カケルはカーミンたちを見た後、宝玉を台座の窪みへ。まずは”喜玉”から。
「ちょっと待ってください」
突然、リカードが中断させた。
「何事か?」
国王代理人が問う前にリカードは壇上へ上り、
「宝玉には正しい位置があります。女神像の窪み4つのうち奥が喜の宝玉、右が怒の宝玉、手前が哀の宝玉、そして左が楽の宝玉です」
「そうだったかな?」
代理人は首を傾げた。
ふと視線を動かしたノボルの視界にキローヌの姿が入った。キローヌの左手は剣の柄に触れている。それは勘づいていたの課もしれない。
何の前触れもなく、リカードがポケットからナイフを取り出し、宝玉を持つカケルを後ろから襲いかかる。
オズ達の計画には無いアクシデントが起きた。
「ノボル!」
オズに呼ばれ、ノボルとオズ、ゼルデム、スカイラーの4人は混乱に乗じて宮殿方面へと走り出す。
メイルの悲鳴で、カケルがナイフを持ったリカードに気付き、声を上げる。
カケルは目を瞑り、死を覚悟したがリカードが苦しむ声を上げる。カケルは痛みがなく、ゆっくりと目を開ける。すると、リカードが壇上から落ちて右頬には大きな傷ができている。かわりに壇上に登ったのはキローヌだ。
何が起こったのかというと、宝玉には置く位置が決まっているとカケルたちへ教えに来たリカードだが、ナイフを取り出してカケルを襲おうとした。それをキローヌが駆けつけて剣で阻止したのだ。これほど早く対応できた理由は、キローヌが剣の柄を左手で握って構えていたからだろう。
ざわつく広場。目の前で起こった出来事を理解できず、呑み込めず、その場から動かない。この状況で次に動いたのはキローヌだ。キローヌはリカードへ剣で追撃を狙うが、後方に飛んで回避される。リカードは着地後立ち上がらずに、先に傷跡を右手で撫でるように触った。すると傷口が消えていく。立ち上がって服についた汚れを軽く落とすと
「よくもやってくれたな。あと一息だったのによ」
リカードは何も持たずにキローヌへと近づくと、次の瞬間、右腕が剣に変貌する。右腕の剣がキローヌを襲いかかる。キローヌは、未だにその姿と顔を見せないように、フードと仮面を付けたまま余裕があるように攻撃をかわす。
カケルや運営の人々はやっとこの状況を理解してその場から離れ、周囲の人々の避難を呼びかける。
キローヌの剣とリカードの剣が右左に幾度と交差したかと思えば、両者交差させたまま硬直状態へ。リカードは、今度は左腕を鎌に変えてキローヌを狙う!
不意打ちの鎌はギリギリ避けられたが、キローヌの仮面とフードを破いた。
「お前は……」
誰しもがキローヌの素顔を見るのは初めてだ。ただ、リカードだけが明らかに反応が他の人とは違った。
「崩れゆくなかで死んだと思っていたが、やはりお前もこっちに来ていたか……」
”お前も?”。意味の解らないカケル達は完全に置いてきぼりだ。キローヌは頑なにしゃべらない。リカードが不気味に大笑いする。
この状況で無闇矢鱈に質問とか独り言とかで首を突っ込むのは危険なことだと考えたのか、誰も手出ししないし、喋らない。今はキローヌに任せて関わらない方がいい。
「まさか、リカードの姿だと分からないのか?」
そう言うと、リカードが黒い姿の怪物へと姿が変わった。周囲には悲鳴が聞こえる。カケルは、黒い怪物となったリカードを指差し
「おい、カナーレの街を襲った怪物って、こいつじゃないのか!?」
すると黒い怪物は、再びリカードの姿に戻った。
「カナーレの街だけじゃない。ポルトゥスの港に停泊する船を襲撃したのも、お前だな」
キローヌが初めて喋った。少年の透明な声。リカードは首を横に振り
「それだけで済むと?」
リカードは周囲を見渡し、手を広げる。
「この世界は、キミがいない世界だ」
リカードが指差す先にいるのは、キローヌだ。キローヌのいない世界とはどういうことだろうか。
「キミが友に敗北し、キミだけがいなくなった世界。誰かさんが改竄できなかった未来」
「国王はどこだ?」
キローヌとリカードだけの会話が続く。2人だけの”世界”で話が進む。
「国王なら死んだよ」
「おい! 死んだって、どういうことだよ!」
カケルが外野から唯一噛みついた。リカードはカケルの方を向き、キローヌには背を向ける。
「ディフェン・ダグラスト国王は、私が手を下すまでも無く、自分の手でこの世を去った。自分の罪滅ぼしは、できなったそうだ。国王は、何年生きていたと思う? 老いることのなく、長い歳月を生き続け」
「やめろ……」
キローヌは静かに怒り、リカードはさらに煽るように具体的な名前を出し始めた。
「洗脳されたディフェンは、カノムと豪雨のなか戦い、相討ちとなった。違う。ディフェンが僅かながら強く、カノムのみが死んだのだ。アキラという少年が暗躍して、改竄した未来はキミが生きている世界だ。この世界は、キミが敗北した世界だ。まさか、カノムがキローヌに転生し、この世界に生まれるとはな」
「戦いは終わってなんかいない。ディフォルミス。もう一度、決着を付けよう。お前の狙いはあの宝玉だろ? 大方、ナイフでカケルを殺し、全部喰うつもりだったんだろ?」
かつて多くの人を喰い、多大な被害を齎した災害級の怪物、ディフォルミス。そのディフォルミスとカノムが戦ったが、その最中に消息を絶った。カノムはディフォルミスに敗北し、ディフォルミスは別の世界、つまりこの世界へと飛ばされた。偶然なのか必然なのか、カノムはこの世界でキローヌに転生した。情報を集める中、ディフォルミスの存在を疑わざる得ないような事象を知り、C.P.に選ばれようが選ばれまいが、この閉会式でリカードの正体を掴むつもりだった。
カノム達のいた世界とノボル達のこの世界は、カノムの生死によって分岐したパラレルワールドである。アキラによって改竄される前の本来あるべき世界というべきだろうか。この世界には、死んだカノムはいないし、改竄するために奔走したアキラもいない。ディフェンはザザアという悪人に乗っ取られ続けた。自我が無いわけではない。罪悪感に押しつぶされ、救出しようとしたかつての仲間たちを外界へと幽閉した。それが後に、”外界街”となる。つまり、”外界街”はディフェンにとって都合の悪い、遠ざけたい昔の仲間達を閉じ込め、彼らが余生を過ごし発展した街ということだ。
キローヌは”黒雲の剱”を構えて、臨戦態勢へ。カケル達は、リカードが街を襲った悪であり、倒すべき相手であるという理解をし、援護する。
銃などの飛び道具もあれば、宮殿を守る兵士もいる。カノムが黒雲の剱でダメージを与え、周りを取り囲む全員がリカードを集中攻撃し、勝敗は予想よりも速かった。
リカードが傷だらけになり、その場に倒れる。丁度、宮殿からはオズやノボルたちが、閉じ込められた”外界街”の住民達を救出して出てきた。
あまりにも呆気ない勝負だった。
*
その晩。カノムは宮殿の地下を調べていた。書物を読めば、ディフォルミスが喋っていたことを裏付けるようなことが、嫌でも分かった。
「それがこの世界だ」
カノムが振り返ると、そこには倒したはずのリカードの姿があった。リカードは少しずつ、カノムに近づくと
「もしキミを殺すなら、黙って近づいただろう。ディフェンが残してしまった”外界街”は生まれ変わる。黒雲の剱に関する宝玉は、力を失っていた。感情を司る宝玉というのは、ディフェンが封じた感情といったところかもな」
「随分とおしゃべりだな」
「この世界で、最初で喰ったこの男の性格が根付いたが故に。もう宝玉を集める必要はなくなった。この世界で蹂躙するには、まずは」
カノムは剱をすぐに構え、ディフォルミスの爪のような鋭利な武器から身を守る。この世界で歴史に決して残ることの無い、カノムとディフォルミスの戦いが勃発した。
そして、夜明け前には、カノムとディフォルミスが両者ともにこの世界を去る……
ディフォルミスによる危機は去った……
End
当時のストーリーから補足すると、カノムがキローヌとして活動するなか、仲間と喋らないかつ姿を隠していたのは転移者だったから。しかも、転移が原因か、なんらかの影響で年齢がカケルたちと同じぐらいに戻っており、『黒雲の剱(ブログ版)』最終回[※]からディフォルミスと初めての再戦。ディフォルミスがキローヌの姿を見て、すぐにカノムだと認識したのはそのためです。[※2022/12/1時点で、なろう掲載のブログ版は途中で止まっており休載中です。]
ブログで掲載していた『フォルスネス -2016-』の未完作品では、喜怒哀楽以外に宝玉として憎しみの”憎玉”や無心の”無玉”、”愛玉”、”夢玉”。さらにそれら宝玉の器となる心の”心器”を追加で集める話でした。敵のディフォルミスは街を1つずつ破壊。
フォルスネスの世界は、『黒雲の剱』で本来進むはずだった未来。『黒雲の剱(ブログ版) 第48章 赤く染まる雨』において、ケン(カノム)が死亡し、その後ザザアに支配されたハガネが、残されたヤイバたちを外界街へ追いやる。アキラは『黒雲の剱』の世界線へ移動したため、『フォルスネス』の世界線にはいません。
ちなみに、『フォルスネス』で前国王の名前として”ディフェン・ダグラスト”の名前がありました。ハガネ本人です。ザザアに支配されたハガネは、年を取らなくなり国王になった。しかし、ディフォルミスがこの世界へ乱入し、リカードを喰う。リカードに成り済まして、ディフェン・ダグラストを殺害した。
この複雑な作品、いつ再掲と手直しするかと考えていましたが、『黒雲の剱』が終わりそうにないので今年出すことにしました。
『フォルスネス』の続編は再執筆するつもりはありません。ただでさえ『黒雲の剱』がかなり絡むので、複数作品がからむ作品は、毎年の路地裏の圏外だけでいいかなと。
『フォルスネス』のキャラクターは、今後『路地裏の圏外』で出てくるかもしれないです。
もうひとつだけ最後に補足すると、フォルスネスの”外の世界”では、ネットなどに時間を費やす人々が、いつしか笑っていても笑顔では無く無表情など、現実での感情表現が少なくなり、喜怒哀楽表現がすべて無表情となる(またはそれに近しい)状況を危惧した国があった。それがシューサルト国を管理する国であり、感情を司る宝玉はそういった背景を意識したもの。たぶん、この設定は表に出ないのでここに書いて供養しておきます。