第5話 初陣
蒼空の初陣が今幕を開けた。
ちなみに試合時間は前回の模擬試合同様十分である。
"私、何すればいいですか?!"
「蒼空にはとりあえず、装備品の説明からしようかな。今手に持ってるその武器は片手剣、一番オーソドックスな武器だね」
片手剣は扱いやすく汎用性が高いため、多くのプレイヤーから支持を集めている。
それに、能力を図るにももってこいだ。
「とりあえず軽く振ってみてくれ。重かったりするか?」
"いえ、振りやすいです!"
カメラで見た感じ、確かに動きやすそうだ。
とそんな説明をしているうちに、白姫が早速動き出す。
──蒼空ー白姫 0ー1 残り時間8分20秒
"点数取られちゃいましたよ?!"
「気にしなくて大丈夫、あくまで今日はお試しだから。なにか気になることとかある?」
"そうですね……白姫さんって強いんですか?"
「あー見えて廣池高校の大将だからな」
"大将!……ってなんだか分かりませんが強そうですね!"
なるほど、こういう細かいルールも今教えてしまおう。
「団体戦は五人で構成されているんだ。前から順に、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将。その中で一番強いのが大将だ」
"つまり白姫さんは、廣池高校 の中で一番強いんですか?!"
「あー、説明下手だったな。実は廣池高校で一番強いのは先鋒の山下ってやつなんだけど……話すと長くなるな」
先鋒はいわば勢いがある奴を置くのが主流だ。
例の山下は実力は大将クラスだが、戦闘スタイルは先鋒そのもの、スタートと同時に相手の陣地に突っ込む特攻型なのだ。
そういう戦闘スタイルによってポジションを変えていくのもまた戦術の一つである。
(まぁこれはおいおい話すとして……)
──蒼空ー白姫 0ー5 残り時間4分35秒
"もう5点も取られちゃいましたよ!陽翔さん、私動かなくていいんですか?"
「うーん、せっかくだしポインターを破壊しに行ってみようか」
"はい!"
そうして陽翔がカメラの視点を移動させた時だった。
「全然来ないから、こっちから来てあげたわ!」
なんとそこには白姫の姿があった。
(まずい、いきなり戦闘は初心者には危険すぎる)
「蒼空、一旦下がっ──」
「喰らいなさい!マジカル☆マシンガン!」
白姫が蒼空目掛けてステッキを振り下ろす。
そのステッキの先から無数の銃弾が発射され、蒼空に襲いかかった。
"きゃあああ!"
「蒼空、大丈夫か?!」
一応使用されている弾はBB弾であるため致命傷にはならないが、打たれ慣れていない、なんなら初めて今日フィールドに立った蒼空にとってこの銃弾の雨は恐怖でしかないだろう。
「とりあえず右斜め前にある岩の裏に!」
"は、はい!"
「逃がさないわよ!」
角度を変え、白姫は攻撃を続ける。
その銃弾の雨に耐え、蒼空は指示を待つ。
「こんな時に聞くの本当に申し訳ないんだけど、ひとつ聞いていいか?」
"なんですか?"
「蒼空、どうしたい?」
彼女がどうしたいのかまだ聞いていなかった。
本当なら最初に聞かなければ行けないだろう質問をこんな状況でするなど、あまりにも頭が悪すぎる。
だが、聞いておかなきゃいけなかった。
プレイヤーは、コマンダーの駒じゃない。
蒼空の出した答えは、
"私、白姫さんに勝ちたいです!"
予想外の答えだった。
本来初心者がこの状況下に置かれた場合、十中八九やめたいと答えるだろう。
しかし彼女はこの状況でもなお「勝ちたい」といった。
ならばコマンダーとして陽翔ができることはただ一つ。
蒼空を勝利に導くだけだ。
「いいか蒼空よく聞いてくれ。白姫の武器であるステッキは、棒状のマシンガンだと思ってくれ。だからいつか玉が切れる、俺の予想だともう八割はうち尽したはずだ」
"八割……"
「そうだ、八割りだ。つまりあと二割耐えた先に、隙が生まれる。その瞬間に白姫の背中にあるコアを攻撃するんだ」
"背中のコア……分かりました!"
「背中のコアを二回攻撃できれば蒼空の勝ちだ。決して背中は見せるな、思い切って真正面から踏み込むんだ!」
"了解です!!!"
蒼空の返事に熱がこもる。
そしてその瞬間は訪れた。
「よし、今だ!」
銃撃がやみ白姫がステッキを下ろしたその瞬間、岩裏に隠れていた蒼空が姿を現す。
急接近する二人、しかし白姫は笑っていた。
「このステッキはただの銃じゃないわ!打撃武器にもなるんだから!」
白姫がステッキを構える。
経験の差や体力的に見ても圧倒的に白姫が有利だ。
(でも勝ちたいって気持ちは伝わった。いい試合だった)
コマンダーがリタイアボタンを押すことも出来るが、彼女の気持ちを尊重しその最後を見届けることにした。
……だが次の瞬間、その場にいた全員が言葉を失った。
白姫がステッキを振り下ろし、蒼空の背中を捉えようとしたその刹那、蒼空の姿が一瞬にして白姫の背後に移動したのだ。
「クイックターン……だと……」
そう、蒼空はあの一瞬で白姫の一撃をかわし彼女の背後に回り込んだのだ。
至近距離かつ素早い動きが求められる大技。
その技がどれほど難しいものなのか、その場にいた全員が知っている。
とてもやろうと思ってできる技では無いのだ。
"やぁぁぁぁあああああ!!!"
ヘッドホンに蒼空の声が響く。
そして、
ビーーーーー!!!!!
試合終了のベルが鳴る。
中央の得点盤には、
──蒼空ー白姫 3―5 白姫WIN
そう表示されていた。
「………………今の、まじか……」
"負けちゃいました……"
悔しがる蒼空。
しかしその光景を目の当たりにした陽翔達は、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
「……彼女、大物になるぞ」
「……あぁ」
遠坂は陽翔の耳元でそうつぶやき、フィールドを後にした。
もし今のターンが偶然ではなく狙ってやったとしたら……
「…………とんでもない奴が現れたぞ」
陽翔は引きつった笑みを浮かべ、二人の帰りを待つのだった。