第4話 変わった子
蒼空が転校してきて2日目の放課後、蒼空はID部の部室に足を運ばせていた。
「それじゃあ改めて自己紹介でもしましょうか!」
昨日は蒼空にIDがどんなものかを教えるために模擬試合を実施したため、こうしてゆっくり話す時間はなかった。
「まずは部長である私ね。私の名前は橘 結衣、ゆいちゃんでいいわよ」
「ゆいちゃん!」
蒼空が繰り返す。
改めて思うが、蒼空の言動は一つ一つが無邪気な子供のようで見てて飽きない。
「はいはーい、次は私!私の名前は水品 愛果、私もあいちゃんでいいよ!」
「あいちゃん!」
同じように繰り返す。
こんな元気な子が不登校だったのかと思うと、なんとも不思議な感覚に陥る。
(蒼空が不登校だったことは、俺しか知らないんだよな……)
「んで俺が、更科 陽翔だ。俺もはるちゃんでいいよ」
「はるちゃん!………くん!」
しっかりとボケに気づいてくれて助かった。
悲しいことに、自己紹介はたった3人で終わりを迎える。
「私も自己紹介しておこう。顧問の遠坂 遥夏だ。普通に先生でいい」
「そこははるちゃんじゃないんですね!」
「ほう、そう呼びたいならそう呼んでもいいぞ?」
「遠慮しときます!」
遠坂は少し寂しそうな顔をうかべる。
普段クールに振舞っているせいで、ちゃん付けで呼ばれる機会がないのだろう。
あと普通に歳…………この話はやめておこう。
「とまぁ自己紹介はここら辺にして……今日はせっかくだしユニフォーム着て実際にやってみるか」
「いきなり実践ですか?!」
「まずは蒼空に合う武器を探さなきゃ行けないからな。勝ち負け気にせず、やりやすいようにやってくれ」
使う武器が決まらない以上自主練も出来ない。
まずは使用武器を決めるところからだ。
「それじゃあ俺は一足先にフィールドに移動してるよ。2人とも、蒼空の着替え手伝ってやってくれ」
「もちろんよ」「らじゃー!」
そう言って更衣室を後にする。
蒼空には悪いが、夏の大会に間に合わせるには今日から始めても遅いぐらいなのだ。
そもそも他の高校は団体戦に5人で出場するのに対し、うちは3人、その時点でハンデを背負っている。
それに初心者を出すほど切羽詰まっている所が、果たしてここ以外にいくつあるのだろうか?
少なくても去年の夏、人数が揃っていない高校は片手ほどだった。
その高校がどのような結果で終わったのかを知っているからこそ、本当に団体戦にエントリーするのか躊躇ってしまう。
「おまたせ!」
考え事をしているうちに、どうやら着替え終わったようだ。
振り返りその姿を確認する。
3人はそれぞれイメージカラーに合った色のユニフォームを着ている。
愛果は橙、結衣は紫、そして蒼空は……
「水色か、似合ってるよ」
「似合ってるだなんて、なんか照れます……」
蒼空が赤面する。
そんな姿を見て「私にもなんかないの?」と言わんばかりの視線を向ける輩が二人。
「あー、2人ももちろん似合ってるよ、イメージ通りだ」
「まぁ当たり前よね」「でしょでしょ!」
(これ誰か褒める度毎回言わなきゃダメなのか?)
きゃっきゃっとはしゃぐ4人を横目に、遠坂はフィールドの状況を確認する。
天候もよく、この一夜でさほど変化は無さそうだ。
「早速だが始めよう。蒼空、相手を選んでくれたまえ」
「そうですね、じゃあ最初はあいちゃ──」
「──待ちなさい!」
突如背後から声が聞こえ、その場にいた全員が声の主を見る。
そこに立っていたのは、
「黒薔薇の女王……」
「その名前は飽きたから捨てたわ!今は白姫って呼んでくれるかしら!」
ザ・厨二病を拗らせた女がそこに居た。
「誰ですか、あの人」
「あぁ、隣の島にある廣池高校ID部の奴だ」
「なんで隣の高校の人が!」
「あいつはそういうやつなんだ……突然来てはあーやって騒いで……多分友達いないんだろうな」
「そこ!聞こえてるわよ!!!私にだって友達ぐらいいるもん!」
ムキになっているところを見ると、いても数人という所だろう。
相変わらず彼女の厨二ムーヴには、こちらまで恥ずかしくなってくる。
「それで、今日は何の用だ黒ば……白姫」
「何って、新入部員が入ったって聞いたから来てあげたんじゃないの!」
「……なんで知ってんだ…………」
「私は魔法使いなんだから、なんでも知ってるのよ!ふふん!(ドヤ顔」
「で、本当は?」
「昨日遊びに来たのになんか入りづらい空気だったから後ろで見てた……ってなんてこと言わせんのよ!」
こいつアホだな。(一同)
「白姫ちゃんって、なんか変わってますね!」
「変わってるって何よ!」
「言ってやるな蒼空、その言葉は彼女に効く」
蒼空の天然っぷりはすごい、あの白姫にダメージを与えるなんて。
悪気がないのが尚更すごい、俺には絶対真似出来ない。
「まぁそんなことはどうでもいいの、貴方が新入部員の蒼空さんね!」
「は、はい」
白姫は蒼空を指さす。
「私と一戦やろうじゃないの!」
「え、でも私、1回もIDをやった事なくて……」
「知ってるわよ、昨日見てたって言ったでしょ。私が最初の相手になってあげるって言ってるのよ」
「えーと、どうしましょう……」
「いいんじゃないか?」
「陽翔さん……?」
正直誰が相手でもいい。
あくまでこれは蒼空の適性を調べるためだけの試合であるため、相手が誰であれやることは変わらない。
「せっかく来てくれたんだし、相手してあげようぜ」
「なんで私が相手してもらう側なのよ!」
「じゃあ別の人と……」
「わかった、わかったってば!やってください〜お願いします〜!」
こいつ本当に恥とかプライドないんだな。
でも素直でいい子なのは見て取れる。
「じゃあ早速やるか。結衣、白姫を更衣室に……」
「その必要は無いわ!」
白姫が制服を脱ぎ捨てる。
その下には、彼女のイメージカラーである白の(前までは黒だった)ユニフォームが仕込まれていた。
しかも改造してあるのか、ヒラヒラとしたものが着いていたり、リボンが着いていたりとまるでドレスのような見た目である。
「なんですかあれ!めっちゃ可愛いです!」
蒼空は興味津々のようだ。
……なんか2人、良い友達になりそうだな。
「それじゃあお互い拠点まで移動しましょ」
「愛果、蒼空を拠点の場所まで案内してやれ」
「らじゃー!いこ、蒼空ちゃん」
フィールドに入る3人を見送り、陽翔はスクリーンの前に立つ。(白姫のコマンダーは遠坂がやることになった)
"あー、あー、陽翔さん、聞こえますか?"
「あぁ聞こえるよ」
どうやら拠点に着いたようだ。
ヘッドホンから声が聞こえて約1分ほどで愛果がフィールドからでてきた。
遠坂のOKサインを確認し、陽翔は開始の合図を鳴らす。
「蒼空ー白姫、試合スタート!」
ビーーーーー!!!!!!!!!
スタートのベルが鳴り、ついに蒼空の初陣が幕を開けた。