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第2話 新入部員

 放課後を知らせるチャイムがなり、生徒たちは帰宅するなり部室に行くなりと各々移動を開始する。

 その人混みに紛れ、転校生 碧乃蒼空は教室を後にしようとしていた。


「蒼空さん、ちょっといいかしら?」


「ん?なんですか?」


 名前を呼ばれ、蒼空は振り返る。

 声をかけた主は、結衣だった。


「あなた、これから時間あるかしら?」


「ありますけど……なんですか、学校案内でもしてくれるんですか!」


「まぁ、そんなところよ。着いてきて」


「はい!」


 結衣は早くも彼女の性格を理解しているようだ。

 誘われた蒼空はほいほいついてきた。


「結衣ちゃん、何を考えてるの(ぼそっ」


 陽翔の耳元で、愛果がそうつぶやく。


「なんでも、スカウトすんだと。ID部に」


「ID部に?!でもでも蒼空ちゃん、今日来たばかりだよ?!」


「だから都合がいいんだと」


「せめてIDを知ってる人に……」


「声をかける宛てはあるのか?」


「うぐっ……」


 愛果が情けない声を上げる。

 実際問題、もう誘う相手がいない。

 もし大会に出たいのならば、蒼空を誘う他ないのだ。


「それに、俺だって蒼空の加入は賛成だ」


「え、なんで?蒼空ちゃんは何も知らないんだよ?」


「何も知らないからいいんだ。形式に惑わされず、のびのびと戦える。それに、潜在的な才能が開花するかもしれない。そうだろ?」


「そ、それはそうだけど……」


「愛果は反対か?」


 よく良く考えればまだ愛果の答えを聞いていなかった。

 部内でちぐはぐした関係は持ちたくない。

 陽翔は愛果の答えを待った。


「……反対ってわけじゃないよ、私も大会出たいもん」


「本当にいいんだな?」


「別にいいよ、最終的に決めるのは蒼空ちゃんだしね。それに……走り出した結衣ちゃんは止まらないからね」


「はは、確かにそうだな」


 2人して笑みをこぼす。

 いついかなる時も結衣はそうだった。

 したいことがあればするし、成し遂げたいことがあればそこに向かって一直線。

 真っ直ぐで、常に前を見て走り続けるそんな子だ。

 それは日常生活だけではなく、IDにおいても同じだった。


「着いたわ」


「えーと、ここは何するところですか?」


 部室に着くなり蒼空は辺りを見渡す。

 部室と言っても空き教室を使っているだけで、特別変なところはない。

 変わったところと言えば、普段目にすることの無いものがそこら中に散らばっているということぐらいだ。


「え、そこに落ちてるのって……刀!もしかして私、これから殺されちゃいます?!」


「そうよ」


「ひぃ!」


「おい、結衣。それで蒼空が逃げ出したらどうするんだ」


「冗談よ、蒼空さん」


 震える蒼空を結衣はそっと撫でる。

 人を驚かせてその反応を楽しむ、結衣は少しSっ毛が強い。


(そういえばイタズラ好きなやつがもう1人ここに……)


 陽翔が横に視線を移すと、既にそこには愛果の姿はなかった。


「(つんつん)」


「ひゃあ!な、なんです──」


「ばぁ!」


「ぎゃー!骸骨ぅー!!」


 愛果は隣の理科室から持ち出した人体模型の頭(前に授業中、愛果が人体模型を倒し体と頭が分離している)を見せつけ、蒼空は走って机の影に逃げ込んだ。


「蒼空さんって見てて飽きないわね」


「結衣、そのおもちゃに向ける目をどうにかしろ……」


 借りてきた猫のように震える蒼空に、陽翔は手を差し伸べる。

 恐る恐るその手を掴み、蒼空は机から顔を出した。


「まぁじゃれ合いはこのくらいにして、本題に入るわ」


「本題……なんですか?」


 完全に疑心暗鬼になっている蒼空は、結衣の一言に身構える。

 あんなことするから……。


「あなた、うちの部に入らない?」


「……コスプレ部?」


「違うわよ!確かにそれっぽい雰囲気あるけども……」


 そう思われるのも仕方ない。

 辺りを見渡しても、散らばっているのは謎のユニフォームや武器等々、IDを知らない人から見れば何に使うのかさえ分からないものが散乱している。


「そもそもIDがなんなのか教えなきゃ決めらんないだろ……」


「それもそうね……愛果、今出来る?」


「ばっちこいであります!」


 どうやら実際に見てもらおうと言う魂胆らしい。

 まぁその方が早いしな。


「陽翔、いつまでそこにいるの?着替えるから出てって」


「え?あ、あぁすまん。じゃあ俺は蒼空さんを先にフィールドに連れてくよ」


「お願いするわ」


 きょとんとしている蒼空の手を取り、陽翔は部室を後にした。

 フィールド、もとい試合場は学校の裏にある。


「フィールドってなんですか?」


「あー、テニスでいうテニスコートみたいなものだと思ってもらえばいいと思うよ」


 草木が生い茂る裏庭を抜け、屋根付きのベンチに腰をかける。

 その先には妙に設備された森が広がっていた。


「ここがフィールドだ。まぁIDがなんだか説明しないと分からないと思うけど……」


 二人が着替え終わるのを待ちがてら、軽く会話を交わす。


「そういえば蒼空さん、今朝浜辺にいた、よね?」


 自己紹介の時に感じた既視感、それは今朝浜辺でみた少女と見た目が一致していたからであった。


「いました、けど……。もしかして見てました?」


「通りかかっただけだから何してるのかまでは見てないけど、住みはそっちの方なの?」


「いえ、今は寮に通ってます。今朝はカニを追いかけてたらあそこに……」


 寮から学校へは逆方向である。

 てっきり近くに越してきたのかと思っていたが、違うらしい。


(まじで不思議っ子って感じだな……)


「どう?転校初日でなんか気になることとかあった?」


「そうですね……思ってたより人が多いと思いました!」


 確かに島の割には人口も安定している。

 住みやすい島だから、という理由だけではない。


「島留学って知ってるか?」


「聞いたことはありますが……どんなのですか?」


「えーと、1900年代後半から始まった制度なんだが……簡単に言うなら「国がサポートしてやるからみんなで島に移住しようぜ!」って制度だな」


「ほほぅ……」


「この島は少し特殊で、家族全員が移住する必要が無いんだ」


「と言うと?」


「島の住民が身元引受け人になって、学生だけが移住できるようになっているんだ」


「…………もしかして私それ使ってるかも……」


 と話を聞くなり蒼空がそう言い出す。

 というのも、


「私元々不登校で……島の学校なら行くって言ってここ来たので……」


 こんな元気な子が不登校、想像もつかなかった。

 先程までの彼女とは打って変わって暗い表情を浮かべる。

 複雑な事情があるのだろう、深追いはしないのがお互いのためだ。


「二人して何くらい顔してるのよ……」


 背後から声が聞こえ振り返ると、そこにはユニフォームに身を包んだ二人の姿があった。

 お互いのイメージカラーで染められたユニフォームは、なんとも派手な印象を受ける。

 愛果の明るい性格を表した橙色と、結衣の凛とした佇まいを引き立たせる紫。

 どちらもよく似合っていた。


「今思ったんだが、コマンダーもう一人どうするんだ?」


 プレイヤー一人につきコマンダーという役割の人間が一人必要になる。

 今の場合だと愛果と結衣の二人のプレイヤーに対して、コマンダーは陽翔一人しかいない。


「──私がやろう」


 まるで待ってましたと言わんばかりのタイミングだ。

 雑木林をかき分け、一人の女性が名乗り出る。


「あれ?担任の先生?」


「あぁ。遠坂はうちの顧問なんだ」


「なんだ陽翔、もう私のことを"遥夏お姉ちゃん"とは呼んでくれないのか?」


「いつも言ってるけど、学校でそれを口にするなって……」


 そんなやり取りを見て愛果と結衣は「またか」といった表情を浮かべる。

 何も知らない蒼空は戸惑っている様子だ。


「えーと、陽翔さんと先生は姉弟なんですか?」


 このやり取りを聞いて、そう思うのも無理はないだろう。


「いや、ただの従姉弟だよ。年の差はあるけど」


「別にそこまで年の差もないだろう」


「え?いやだってお前今年で2……」


「そんなことより早く試合を始めよう」


 遠坂が強引に話を切る。

 男勝りな彼女も心はレディーらしい。


「それで、私はどっちにつけばいい?」


「あー、決めてなかったな」


 今この部活にはコマンダーが陽翔しかいない。

 故に二人のコマンダーはずっと陽翔一人でやってきた。

 つまり二人の戦術や能力は全て把握済みだ。


「俺はどっちでもいいけど、遠坂はどっちやりたいとかあるか?」


「私こそどちらでもいい。愛果、結衣、君たちはどっちをコマンダーに付けたい?」


 遠坂が唐突に話を振る。

 正直こんなやり取りで時間を使いたくないんだが……。


「私たちに話しを振らないで下さいよぅ……」


 そりゃ困るよな。

 ここは俺が切り出した方が良さそうだ。


「じゃあ俺が愛果に着く。そっちの方が説明しやすいだろうしな」


 愛果と結衣、二人の戦術を比べた時、初心者がみてわかりやすいのは愛果の戦い方だ。


「わかった。それじゃあ始めようか」


 二人は笑みを浮かべ拳を強く握る。

 5時を知らせる島の鐘が、試合の開始を告げるのだった。



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