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#62 TS美少女は気難しい魔女に師事したい。

お待たせいたしました。

あまりにも長期間の失踪、本当に申し訳ないです。

詳しくは活動報告に書きましたので、よろしければ。

「ふぅーん。お前があいつの言っていたユナってやつか」


 地面に擦るように着陸―――いや、墜落したとしか言いようがない―――した私は、痛むお尻をさすりながら顔を上げ、声のした方を見る。


 目の前に立つ女性が、じっと私を値踏みするように見つめてくる。もしかして彼女がセイラだろうか。

 

  すらっとした長身で、私より20センチ近く背が高い。青みがかった黒髪を高いポニーテールにまとめ、解いたら骨盤あたりまで届きそうな長さだ。


 切れ長の目に、吸い込まれそうな黒の瞳が、私の全身を隅々まで観察している。恐ろしいほどの威圧感に、思わず身震いしてしまう。


「え、えっと……ミライの紹介で来たんですけど、セイラさん、ですよね?さっきのは一体……」


 私は立ち上がり、服の土ぼこりを叩きながら声を絞り出した。あの赤いファイヤーボールのような飛翔体は、彼女の仕業に違いない。胸が締め付けられるような緊張が走る。


「はぁ……」


 目の前の女性は、面倒くさそうに溜息をつきながら、ぶっきらぼうに返した。


「そうだ。私がセイラだ……さっきのは、うちを守るただの防御装置。……せっかく気を使ってうちの前に続く一本道だけは今朝から切っといてやったのにさあ、お前が明後日から空を飛んでくるから敵だと思うに決まってるだろうが!ったく」


 怒りと呆れがミックスされたようなその声に、思わず肩が縮こまる。コノヒトコワイ。


「んだぁ?用事がないなら帰った帰った。あたしゃ忙しいんだ」


 そう言いながら手でシッシのポーズを取るセイラさん。


 ……でも、ここで引くわけにはいかない。それじゃあ何のためにここまで来たのかわからないじゃん!

 あのミライが折角取り次いでくれたのだ。これで折れていては次は無いだろう。そんな気がする。


  深呼吸……深呼吸……ひっ、ひっ、ふー…………これは違うか。ともかく!


「ここで魔法を教えてください!!!ここで学びたいんです!!!!!!」


 自分史上最高の声量でそう言うと頭を下げる。気分は湯〇婆に対峙するち〇ろだ。


  私の言葉を聞いて、セイラさんが鼻で笑う。


「学びたい、ねぇ。確かに昨晩、あの適当な神が夢枕に現れて、いつもの調子で『目にかけてる子紹介したから、魔法の修行させてあげて、シクヨロ☆』とかほざいてきたけど」


 彼女の声には、明らかな不機嫌さが滲む。


 それにしても「シクヨロ☆」って、ミライさあ……そういうとこあるよね、あの(ひと)。ただ、もうちょっと、あの、なんとかなりませんでした……?セイラさんの不機嫌オーラがすごいの。


「まぁ、いい。お前があの頭のおかしい爆発魔法を連発してたヤツだとわかった時点で、ちょっと興味は湧いた」

「あたまのおかしい」


……爆発って、たぶんしばらく前にバカスカやってた爆裂魔法のことだよね……?

 見られてたんだ……!?まじかあ……


……ん?まてよ?「連発」ってことは、いうことはグラシスの街での出来事も彼女は知っているのだろうか。


「知ってるぞ。あとお前の出自も、レイとかいう親友の件も」


「うわぁぜんぶしられてる!?」


(ってか心読んでない!?あの人……)


 私がそう考えた、次の瞬間。


「正解だ。」


 そう言ってニタリと笑うセイラさん。不思議だね。笑顔なのに全然怖すぎる。


「とは言っても全てではない。昨晩神をゆすって情報を得たのと、グラシスでのことはそこの望遠鏡でも確認できた」


 そう言って親指を上げた握り拳を赤いトンガリ屋根の家の方へと向ける。そこには確かに望遠鏡のようなものが。


 なぁんだ!流石に心を読むことなんて出来ない「できないとは言ってないぞ?」ひぇっ……。


再び縮こまる私に、セイラさんがため息をつき、顎を軽く上げる。


「で? お前、魔法を学びたいのか?」


「は、はい! お願いします! 私、魔法をもっと深めたいんです! 制御とか、意思とか、ちゃんとできるようになりたいんです!」


  レイの事件が頭をよぎる。あのとき、魔法が暴走して、私は何もできなかった。もう二度と、あんな悔しい思いはしたくない。


 セイラさんがじっと私を見つめる。黒い瞳が、心の奥まで見透かすようだ。


 恐ろしいほどの圧迫感に、思わず息を呑む。



 しばらくの沈黙の後、彼女がぽつりと呟く。


「めんどくせぇ……まぁ、いいや。ついてきな」


 そう言うやいなや踵を返して歩き出すセイラさん。私は思わず小さくガッツポーズをする。


 認めてもらえたのだろうか? そんなことを考えていると、セイラさんが思い至ったという様子で歩みを止め、こちらを振り返る。


「お前、飛べるんだったよな?じゃ飛ぶわ」


 そう言ってまた、あのニタァとした笑みを浮かべるセイラさん。とん、とん、ふわり。とステップを踏んで、空中に浮かび上がる。


「ついてこい」


 そう一言だけ言うやいなや、彼女はぐんぐん加速していく。


 私は衝撃波に思わず顔を顰めつつも、慌てて飛び立ち彼女の後を追うのだった。



「え、あ、はい!ってえぇ!?速あ!?ちょ、ちょっと待って、ください〜!?」






 数十秒後。私たちは、山の頂上付近にいた。岩肌がむき出しでゴツゴツした、荒々しい場所だ。風がビュービュー吹き、森ではもう春が来ているのにらここではまだちらほら雪が残っていた。

 寒さに身震いしつつ、帰って布団に埋まりたい衝動を必死に抑えて、セイラさんの後に続く。


「ここだ」


 セイラさんがピタッと止まる。

 目の前には、ぽっかりと開いた穴があった。


 直径5メートルほどだろうか?内壁は不自然につるつるで、人工的に作られたような印象だ。

 底からかすかに「ゴゴゴ……」という音が聞こえるが、漆黒の闇に飲み込まれ、深さはまったくわからない。あまりにも不気味すぎる。


  私は恐る恐る穴を覗き込み、顔を引っ込めながら、セイラさんに振り返る。


「それで、ここでどうするんですか?」


 セイラさんがじっと私を見つめる。


 黒い瞳に、ニヤリとした笑みが浮かぶ。

 さっきから、何度も見たあの怖い笑み。


「学びたいって言うなら……覚悟はあるんだよな?」


 ずっしりと重くのしかかるようなその言葉に、私は思わずたじろぎそうになる。


 頑張れ、頑張れ私?ここで負けるは女がすたる!

 そう考えて気づいたけど、どうも最近はもう自己の認識が完全に女になってる気がする。ええい、今はそれどころじゃなくて!


「はい、あります! どんな修行でも、受けてみせます!」


 私は拳を握り、なんとか精一杯の気合で答える。

 

 これから私は一体どんなことをやらされるのだろうか、想像もできなかった。


 でも、ミライがわざわざ紹介してくれたってことは信頼のおける?人物なんだろうし。



 それに、私の魔法なら、だいたいのことはどうにかなるだろう。


 そう、楽観的に考えていた。このときまでは。



 ニタァァァァ……


 セイラさんの笑みが深まる。


 明らかに尋常じゃない雰囲気。 そして、その身にオーラのようなものが纏われている気がする。


……これは、魔力……?


「ふん。なら、いいだろう。試練は――」


 その瞬間、セイラさんが消えた。


 瞬間移動!? どこへ。背後で気配g「こうするんだよ」


低い声が耳元で響き、



ドンッ! 



強烈な力で背中を突き飛ばされる。




「いいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!?!?!!?!?!?!???!???!??!?!?!?????、」


視界がぐるんと回る。

漆黒の穴に吸い込まれる。

落ちる


















 徐々に聞こえなくなっていく悲鳴を聞いて、私は満足気に頷いた。


 ミライの言ってた娘、ユナと言ったか。


 確かに面白い素質は持ってる。 さっきじっと見つめて、勝手にステータスを覗いてやった。

 創造魔法?万能すぎてつまらん魔法だ。


 だが、問題はそこじゃない。

 

 こいつの魔法は、容量じゃなくて制御がまるでなってない。 あのスタンピードも、(ミライ)が言っていた親友のレイってヤツの妙な能力も、全部元はと言えばこいつの意思がブレまくってるせいだ。


 ミライの話じゃ、レイってやつの魂が分離して、2つの魂が互いに干渉し合ったせいで魔法がねじ曲がったらしい。意思の制御が甘いから、魂の力が魔法に介入したってわけだ。めんどくさいことこの上ない。


 私は静かに岩場に立ち、穴に落ちたユナの気配を追う。どうやら最下層に辿りついたらしい。


 あの娘、見た目は華奢でも、身体は異様に頑丈だ。あの程度の落下じゃ死なない。せいぜい衝撃で不快感を覚える程度だろう。 文句なら後で幾らでも言うが良い。


 無論、生きて帰って来れたらの話だが。


 そもそも、こんなことに巻き込まれたくなかった。人と関わるなんて、ろくなことにならない。あのとき――いや、昔のことは思い出したくない。


 あたしは平穏に暮らしたいだけなのに。ミライのやつが勝手に夢枕で「シクヨロ☆」とかほざいてくる度に、あたしは面倒事を押し付けてきた。


 ったく、神ってのはいつもこうだ。


 ただ、まぁ、このユナって娘、私は割と嫌いじゃなかった。


 どこかちょっと私と似てる気がするのだ。


 行動も、生活スタイルも、魔法に対する情熱も。


 だが、甘やかす気はない。魔法を極めるなら、まずは自分の意思をちゃんと握れって話だ。


  この穴は、私が昔作った試練場。魔力量を制限し、魔法を「ほぼ」無効化する結界を張ってある修行用のダンジョン。意思を鍛えないことには突破できない仕組みだ。


 生きて帰ってくれば、良し。死んだのなら、それまでのこと。


 さて、ユナ、お前ならどうやって這い上がってくる?



 私はニヤリと笑い、穴の縁に腰掛ける。 それから、遠隔魔法を起動して、彼女の様子をしばらくの間観察するのであった。

少しずつですが、頑張って更新していこうと思います。

次回更新は8/1(金)18:00を予定しています。

ストックがあるうちにストックを増やしたい、、、。


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新作連載始めました!こちらもよろしくお願いします!! TSして女の子になったけどいつでも戻れる僕の日常
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