#59 TS美少女は魔法の力を極めたい。
お待たせしました。
間に合った!
「早速、取り掛かるとしようか」
そう言うと僕は、神の力を少しだけ本気モードで解放する。……降臨しながらこれやると疲れるんだよねぇ。まぁ、さっさと終わらせればいいだろう。
彼女の魂をなんとかするためには、まず「レイくん」の人格も引っ張り出さないといけない。
同じ身体に2人の人格がある場合、どうするにせよ双方の合意が大切になる。2人が納得すればいいんだけど、さっきみたいに片方が強く拒絶したりすると調整が上手くいかなくなるかもしれないからだ。
……まぁ僕は神だから干渉される心配はないに等しいんだけど、一応念の為。それに、余計な禍根を遺すのも悪いしね。
作業としては至って単純で、今は深層にいる「レイくん」の人格を表層にもってくればいい。表層の器は今「レイちゃん」が入っているから、別で仮の器を用意して、そこに入れてあげるのだ。
すると同時に2人の人格が擬似的にではあるものの表層に出てくることが出来る。この状態も続けばよくないんだけど、今回はごく短時間だし大丈夫だろう。
「レイ、僕のことわかるかい?聞こえたら返事をしてほしいな」
僕はあえて敬称を付けずに彼女のことを呼んだ。
「うん」
「わかるよ」
「え?」
「え?」
目の前にぺたりと座り込んでいたレイは、困惑した表情を浮かべてこちらを上目遣いに見つめてくる。それを見て隣にいるユナが「……かわよすぎんか?」と小声で呟いた。
まぁ彼女が困惑するのも、無理はない。いま彼女は、ふたつの人格が同時に表層に出てきている。彼女の主観だと、「自分じゃないけどたしかに自分なもうひとりの自分がいる」という状態なのだから。
◆
神の呼び掛けにより覚醒したオレ。
しかしすぐに違和感に気がつく。
オレの中に、自分じゃない自分がいる。その子は明らかにオレではないけれど、明らかにオレ自身でもあった。そう、確信できる。
この不思議な体験に、正直オレはとても困惑していた。
それは「オレ」じゃない「わたし」も同じだったようで、2人で顔を見合わせる。もちろん意識の中でだけども。
神の説明によると、これから魂の調整をするから両方の人格を同時に呼び出した、ということらしい。なるほど……よくわからないけどとりあえずわかった。
それは「わたし」も同じようで、やっぱりこういうところで自分なんだなぁと感じる。
少し時間が経つと、この不思議な状態にも慣れてきた。お互いにお互いが結局は自分なのだと朧けながら理解できたからかもしれない。
神はそれを見計らってか、説明を再開した。
「2人を同時に表層に呼び出したのは、これからの調整の方向を決めたいからなんだ。どちらの君もも「レイ」という個人である以上尊重しない訳にはいかないからね」
「つまり、オレたちでどうするか話し合えってことか?」
「うん。だいたいそんな感じさ。
とは言っても、選択肢は僕がこれから提示する3つの中から選んでもらうけどね」
「ひとつめは、原状回復。今日のことを全部無かったことにした上で魂の器を削除する。ただ、その場合だと別れた「レイちゃん」の方の人格は消滅することになる」
「……やだ……わたし、消えたくない……」
神の提示した1つ目の選択肢を、「わたし」が否定する。その声は震えていて、同じ身体を共有するオレにも「わたし」の恐怖の感情がひしひしと伝わってくる。
案をのめば、即座に自分の存在が消される。そう考えると恐ろしい。
うん。この案はなしで。
「まぁ、そう言うと思ったよ」
神にとってもこれは予想内だったようで、気にせず次に進む。
「ふたつめは、2人を完全に分離する方法。レイくんはもとの身体に、レイちゃんは今の身体になって、それぞれ別の独立した存在になってもらう」
「みっつめは、2人を統合してひとつの魂にすることだ。わかりやすく言えば、足して2で割るってやつ。ただその場合、お互いがお互いの影響を受けて趣味嗜好、思考、志向、性格が変わる可能性もなくはない」
「僕的にはどっちでもいいから、ふたりでゆっくり話して決めるといいよ。……でも時間もだいぶ過ぎちゃってるし、ちょっと早めだと嬉しいかな」
そう言うと神は隣にいたユナと話し始める。ユナはユナで何かあったようで、なんというか、今日最初に出会った時よりもかなりやつれ憔悴しているように感じのはオレだけだろうか。
――――わたしもそう思うよ。
やっぱり。
――――でさ、どうする?
それなんだけどさ
……………………
………………
…………
……
◆
それから数分。
そこには、さっきと特に変わらないレイの姿があった。それでもミライによる調整はつつがなく行われたようで、レイの統合が完了したらしい。
ちなみにミライはと言うと、終わるや否や「疲れたから帰るね。あとよろしく☆」って言って神界に帰って行った。来てくれただけでもありがたいから別に文句は言わないけど、最後までいればいいのに、とちょっと思わなくもない。
結局、最後にレイが選んだのはみっつめで、
2人の人格は、ひとつの魂に統合されたらしい。
「それってどうなってるの?」
私はレイに問いかければ、
「うーん、オレの中にわたしもいて、わたしの中にオレもいる。そうとしか説明出来ないかなぁ」
なんて答えが帰ってきた。
うーん、なんもわかんない。
とにかく、まぁ、これでレイが死んじゃう心配もなくなったんだし、とりあえずおっけーってことにしておこうかな。
そう思ったところで、私はふと時計を見上げ……
「もうこんな時間!?そろそろレイの親さん帰ってきちゃう!?」
私につられてレイも時計を見るや否や慌てだした。
「ユナ、送って!?」
そうせがむレイ。
私は急いで「転移」を発動しそうになって、気がつく。
「レイ今女の子じゃんっ!」
「あぁっ!忘れてたっ!!」
そう言うとレイの身体は見慣れた男子のものにTSしていく。どうやら能力は変わらずらしい。
「おっけー、帰ろうっ!」
「うん!「転移ッ」」
シュパ
◇
結果だけ言えば、レイはあのあとギリギリセーフでレイは親よりも先に家に帰ることが出来た。
できたけど、私の家の玄関に靴を忘れていったので、結局ちょっと怪しまれちゃったようだ。強く生きて欲しい。ちなみに、靴はあとでちゃんと深夜に届けておいた。
去り際に、レイは「またあそこに連れてって欲しい」と言ってきた。
私はもちろんそれを了承して、ふと思い、レイの耳元で言う。
「よければなんだけど、そのときはまたかわいい服着て欲しいな。新しいのもいっぱいあるからね」
「…………うん///」
私が囁いたその言葉に、レイは甘い顔をして応えるのだった。
◇
また転移して家に帰ってきた私は、魔法でお湯を沸かし、お茶をいれてソファに座り込み、一気に飲みほす。
すべてが終わった開放感からか、一気にスイッチが切れたみたいで、ソファにぐでーっともたれかかる。
「ほんと、今日はいろいろあったなぁ……」
良いことも、悪いことも。
きっと、今日のことはいつまでも忘れないだろう。
今まで、私は万能だと、どこかで思っていた。
だけど、そんなことはなかった。それが悔しくて、不甲斐なくて、なにより、怖かった。
これが傲慢なのはわかってる。でも。それでも私は魔法についてもっと深めたい。
ただ、今日はもう動く気になれない。
明日からでもいいだろうか。
とりあえず、今日は無事なんとかなったのだ。
今日ぐらいは、いいよね。
なにせ、私の誕生日なんだから。
実は今日12/4日で、まほぐうは1周年を迎えました。
ここまで続けてこれたのは、読者の皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます!!
ユナちゃんの誕生日は4/27ですが、今日12/4も、「ユナ」という人物に命が吹き込まれた日として第二の誕生日と言えるのではないでしょうか。
これからもまほぐうは続きますので、応援よろしくお願いします!
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