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#51 TS美少女の親友はその日を回想する。

死を扱っています。

苦手な方はご注意ください。

 その日はいつも通りに学校に行って、1時間目にある英語の小テストの勉強をしていた。


「それにしても、今日はあいつ遅いな……」


 そう思って俺は時計を見上げる。

教室の前方に掛けられた時計は8時24分を指していた。



 俺たちの学校では8時30分からHRが始まるから、それまでに教室にいなければ遅刻となる。


 それなのに、30分になって先生が教室に入ってきても


あいつは姿を表さなかった。









 先生はなにか聞いてないか確認したけど、先生もなにも知らないらしく、不思議そうな顔をしていた。


 HRが終わると、先生は家に連絡してみると言って教室の外へと出ていった。


 すると、隣の席のクラスメイトが話しかけてくる。


「なぁ、今日なんであいつ来てないんだと思う?」


「いや、わからん……。なんで俺に?」


「そりゃぁだって、あいつとお前っていつも一緒にいるじゃん?RAINとか来てないのかなーって思ってさ」


「あー、確かに否定はしないけど。

でも今朝はRAIN来てなかったと思うし、昨夜会話してた時も体調悪いとか、今日休むって話は聞いてないな」


「あーね?じゃあサボりか寝坊とかじゃねぇの?」


「そうだといいんだけどね……」


 そう言いながらも、俺はその言葉を否定する。


 寝坊……あいつに限ってそれはないだろう。

あいつはギリギリなことはあれど、今まで遅れたことは決して無かった。

 それに真面目なあいつが学校をサボって何処かへ遊びに行くようなことは考えられない。


 体調が悪いとかなら良いんだが、それなら普通連絡するよな……?


「あいつの身に、なにかよからぬことが起きているのではないか」


 その妙な胸騒ぎと共に俺に纏わりついたその不安は、


まもなく現実となった。










 その日の帰りのHRは珍しく副担任の先生が来た。


担任の先生はどうしたのかと聞くと、なんだかはぐらかされてしまう。


 なんだか、嫌な予感がした俺は、HRが終わるとすぐに教室を飛び出すと全速力で家に帰った。


 学校の荷物を自分の部屋へ投げ込み、制服を脱ぎ捨ててその辺に転がっていた服を着る。


 そしてあいつの家に行こうと、玄関で靴を履いていると、母が声をかけてきた。


「おかえり、玲。……どこに行くの?」


「あいつの家。今日学校来てなかったから心配なんだよ」


 俺は靴紐を結びながら振り返らずに応える。



「……そう。やっぱり聞いてないのね……」



 その声は固く、冷たく、そして震えていた。

その声にびっくりした俺は、母の方を振り向く。


 母の顔は悲痛そのもので、なにか伝えるのを拒もうとすらしているように感じた。


(……なんて顔をしてるんだよ。それじゃあまるで―――)




(っ!?)




 そこまで言ったところで、俺は言葉を飲み込む。


このとき、なんとなく、察してしまったのだ。


思いつく限り、最悪の展開を。




「さっきあの子のママから連絡があったわ。あの子今朝登校中に、交通事故にあったらしいの。

……トラックが、突っ込んできたらしいわ」






「……即死、だったそうよ」













(嘘だ)




(ありえない)




(嘘だ)




(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!!!)







 その瞬間、俺の世界から光が失われ、目の前は真っ暗になった。










 数日中に葬儀が行われた。


損傷が激しかったらしく、最後に顔を見ることは出来なかった。


 俺は火葬場の裏にある、小さな公園のベンチに座ると、煙突から出る煙をただ眺めながら考え事をする。


 「あいつ」は俺にとって気兼ねなくなんでも話せる趣味も癖もほぼ同じの幼馴染の大親友。

 俺の中で「友達」は数十人いるが、「親友」と言えるのはあいつだけだった。後にも、たぶん先にも。


ヤバい……泣きそうだ。


 俺は「泣き姿などカッコ悪いな」と、咄嗟に涙を抑えようとする。


 ……でも、まぁ、今日は、もう、いいよな。



 最初はじわっと広がった水は、

次第に勢いを増して、顔を伝い、落ちて行った。



 ……なんでだよっ……!なんでお前だけがっ……!


こんなのって……クソっ……!



……








 あれからおよそ半年が経った。


今日は中学の卒業式だ。


 出席番号順に先生が名前を呼び、その度に大きな返事が聞こえてくる。


 だけど、ある番号(・・・・)のときは、返事がない。時間にして、ほんの数秒だけ。場を沈黙が支配する。


 そう。その番号とは、あいつの番号だ。


「本当なら、あいつもここにいたんだよなぁ」

そう嫌でもそう考えてしまう。


 あいつがいなくなってからというもの、どこかやっぱり心に穴が空いているような感覚がする。


 俺はふと、昔どこかで聞いた「人は失ってから大切なことに気づく」という言葉を思い出す。


 あぁ。全くその通りだよ畜生……。








 なんて感傷に浸っていた俺は当然集中など切れていた訳で。



「――――――…………!、鵡川玲!」


「あ、はぁいっ!」



 そんな気の抜けた声を出してしまい、先生に睨まれる。


 ここにあいつがいたらきっと笑われてしばらくネタにされるだろう。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ここにあいつがいなくて良かったと思う。


 ……ん?あれ、でもよく考えたらそもそもあいつが居れば考え事なんてしなかったんだよな……?

じゃあやっぱりあいつのせいだな。うん。


「えぇ……」


 なんだか、あいつがそう言った気がした。



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新作連載始めました!こちらもよろしくお願いします!! TSして女の子になったけどいつでも戻れる僕の日常
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