#47 TS美少女は家に帰る。
あれからしばらくの間私と神様は神界でだべっていた。
話がひと段落したので神様がおもむろに立ち上がり、後ろを向いたその時
「あ」
なにかを思い出したような声を出す神様。
そのままぎこちない動きでこちらを振り向くと、頬を掻きながら非常に申し訳なさそうな顔をした。
「ん……?どしたの?」
「あのさ、ちょっと言いにくいんだけど……」
「うん」
「神界と下界では時の流れが違うってこと前にちょこっとだけ言ったじゃん……?」
なんか、嫌な予感がする。
私のこういう時の感って結構当たるんだよね。
「ユナの身体を調整して、ユナが気が付いてからはいろいろ話したじゃん?」
「うん。」
「それでね、えーっと、この世界の数時間ってね、
下 界 で の 数 日 に 相 当 す る ん だ」
……
……マジで?
「じゃあ、ってことは今向こうの世界では何日経ってるの……?」
「2週間とちょっとだね」
「2週間とちょっと!?」
「正確に言うと18日だね」
「えええっ!?」
通りで全然話が更新されないと思ったよ……
えっ、それじゃぁ……
「その間の私の身体ってどうなってるの……?」
「えーっとね……今君の身体はあの街の治療院ってとこで寝かされてるみたい……ほらこれ」
そう言って神様はいつかの時も使ったタブレット端末を私に手渡してくる。
「わー……ほんとだぁ……」
「いや、ほんとごめん……。悠長に君とだべってないで
本当なら時間を巻き戻すべきなんだろうけど、さっきユナの身体をいろいろやるので力使いすぎちゃって、時間を巻き戻そうにも……」
「そっか……わかった。今回は元を辿れば私が悪いし、別にいいよ」
「そう言ってくれるとありがたいよ……」
そうこうしてる間にも、刻々と過ぎていく時間。
とりあえず早く向こうに戻らなきゃ。
「……転移!…………あれ?」
私はいつも通り転移を発動しようとするが、何故か上手くいかない。私が神様に聞くと、どうやら今の私は魂だけこちらに来てて肉体は向こうにあるから魔法は使えない、ということらしい。
えっ、じゃあどうやって帰れば……
「それは僕がやるよ」
私の心を見透かしたのか単純に顔に書いてあったのか、神様がそう言ってきた。
「じゃあ送るね。よかったらまた遊びに来てよ」
「うん。ありがと」
神様が手を振りながら微笑むのを見たのを最後に、私の意識はぷつりと途切れた。
◇
「知らない天井だ……」
気がつくと、私は治療院のベッドの上にいた。
窓の外が明るいのを見ると、今は昼間だろうか。
私は起き上がろうと体を動かそうとして、戦慄する。
体がうまく動かないのだ。
……そりゃあまぁ3週間近くも寝たきりだったらそうなるよね。筋肉とか固まってたり落ちてたりしてるだろうし。
よく見たら元々白く細かった腕がさらに病的なまでに細く白くなってしまっている。
「……ヒール」
ポワンッ
私は自分の身体にヒールをかけ、なんとか動くようになった身体をなんとか持ち上げる。
床に足を下ろして、ベッドに腰掛けるように座った私は、今後の動きについて考えた。
「……絶対めんどくさいことになるよな……。なんで突っ込んでったんだとか、なんで3週間も目覚めなかったんだとか、あの力はなんだとか……」
特に3つ目。
あれだけのやらかしをしてしまった以上無かったことになど到底出来もしないだろうし、それで崇められても逆に恐れられても困る。
「魔女狩り」
そんな単語が頭に浮かんで私の頭を埋め尽くす。
……
……
「よし、逃げよう。うん」
そう思った私はベッドから出窓の枠の上に乗って、
窓を開けようとして――――
「ユナ、お見舞いにきた……」
ドサッ(荷物が落ちた音)
扉を開けて中に入ってきたノスティと目が合う。
……
……
……やべっ☆
「ユナぁあああうああああっっっ!!」
◇
「ぐずっ……ぐずっ……ユナぁ……
死んじゃったかと……、もう目が覚めないんじゃないかって思ったよぉ……!」
再びベッドに腰掛けて座った私は今、
ノスティに抱きしめられて動けずにいた。
「ふえぇ……よがっだよぉ……」
そう言って私の胸元で涙を流すノスティ。
こんなノスティは初めて見たから最初はちょっと困惑したけど、やっぱりめちゃくちゃ心配させてたんだよね……と反省する。
「ノスティ、心配かけてごめんね。私はもう大丈夫だよ」
私はそう言うと、ノスティのことを抱きしめ返す。
私たちはしばらくの間抱きしめ合ったまますごした。
……ひと通り泣き終わって冷静になったノスティが羞恥でちょっと顔を赤らめてるのが可愛かったと付け足しておく。
◇
ノスティが一旦部屋を出ていった。
きっと私が目覚めたことを知らせて、みんなのことを呼ぶのだろう。
今逃げようかともちょっと思ったけど、今逃げたらそれはそれでめんどくさいことになるだろうからやめておく。
しばらくして、他の3人とエドさん、ギースさんが駆け込むように部屋へと入ってくる。
「ユナああああっ!!!!」
「無事でよかった……」
「もう目覚めないんじゃないかってヒヤヒヤしたぜ」
「もう大丈夫なのか?」
「よかったよぉ……本当によかったよぉ……」
そう言って口々に話しかけてくる冒険者sを遮って、エドさんが口を開く。
「もう大丈夫なんだな?
……それじゃあ聞かせてもらおうか。
なんであんな無茶をしたのかを」
……逃げ、あっ肩掴まれた
……(目逸らし)
……
「わかりました。話します……」
◇
「それであんな無茶な行動をしたと?」
「はい……」
私の話を聞いたエドさんは、私をめちゃくちゃ怒った。
そりゃあもう、盛大な雷が落ちた。
それでも、私のことを本気で心配してくれたからこその言葉だろう。
めちゃくちゃ謝って、大規模な魔法は今後(この世界では)控えることを伝えたら許してくれた。
そこまで話したところで、今までずっと後方腕組みしながら話を聞いていたギースさんが口を開く。
「あのなぁ、ユナ。オレが思うに、君は1人で抱え込みすぎだ。もっと仲間を頼って相談しろよ?」
……仲間、ね。
「私の、仲間……」
私がそう言うと、アランたちがサムズアップしてニヤニヤとしながら私を見てくる。
「ユナは既に俺たちの仲間だぜ?な、みんな」
「あぁ。その通りだな」
「うんうん。ユナはもう私たちのパーティーメンバーだよっ!」
そう言って笑う3人。
「ユナとはここで一旦お別れかもだけど、ボクたちはいつでもユナのことを待ってるからね」
そしてノスティがそう私に微笑んだ。
……そっか。私、仲間いたんだ。
いい仲間を持ったなぁ、私。
あれ……なんか涙が……
「ありがとう」
そう言って、私も泣きながら笑うのだった。
◇
夕方。
いよいよお別れの時だ。
よく考えたら私は転移が使えるんだから、帰るのは一瞬。そう思って引き伸ばしに伸ばした結果この時間になっちゃったのだ。
「また遊びに来てな」
「俺たちはいつでも待ってるぜ」
「教わったことを行かせるよう、頑張るわ」
「いろいろと、本当にありがとう」
そう言って声を掛けてくれる仲間たち。
別れの言葉を言い終わったのを見計らってか入れ替わりでエドさんがやってくる。
エドさんは何やら懐を漁ると、私に2枚の書類を差し出してきた。
「……これって……!」
「あぁ。こっちの書類は住民登録だ。ユナは出して無かったんだろ?なにか事情があるのかは知らんが今回は俺の権限で作っておいた。
それからこっちはギルドの紹介状だ。もし冒険者ギルドに登録してくれるのであればこれも俺権限で一気にBランクまで上げるよう指示が書いてある。
……まぁこの街のギルドで手続きする分には別に要らねぇがな。念の為だ」
「こんなに……。嬉しいけど、いいの?」
「あぁ。さっきは怒ったが意図的ではない上ポーションの無償提供や魔物の殲滅など功績はかなり大きいからな。
……それにあんだけの魔法使いを完全フリーにしとくには惜しいしな。」
そう言うと少し顔に影を落とすエドさん。
過去になにかあったのかな。
「まぁとにかくだ。別にもう怒ったりしてねぇから、冬が開けたら是非またこの街に来てくれ」
そう言うとエドさんは数歩下がり、私の転移を阻害しないようにしてくれる。
傾いた夕日に背を向けた私は、様々な想いをのせて言った。
「みんな、ありがとう!!」
それに手を振って応えてくれた仲間たちを見た私は、小さな声で転移魔法を唱えた。
◇
転移したのは自宅の目の前の庭。
私の目の前には、およそ1ヶ月ぶりとなる我が家があった。
「ただいま」
そう呟くと、私は家に入る。
流石に少しホコリが溜まってたりしている。
明日は掃除をしようかな。
今日はもう動く気がない。
久しぶりの家だ。のんびりまったりしよう。
スマホも長い間触ってなかったし、久しぶりにネトサでもしようか……?
そんなことを考えながら、私は魔法でお茶を入れ、魔法で暖炉に火をつける。
お茶を飲みながらスマホでネトサをして、魔法でお風呂を沸かして入り、魔法のベッドで寝る。
またいつも通りの日常が戻ろうとしていた。
これにてスタンピード編、そして第一章が完結になります。第二章開始までは1話完結や前後編など短い話を中心にする予定です。
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