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#45 冒険者たちとスタンピードの爪痕。


「……なんだぁ…あれは!?」


 それは、ギルマスからの突然の退避命令に困惑しながらも、従って後方に引いたその時だった。


ピカァァァァァッッッッッッ!!!


 突然夜空が急に明るくなったかと思うと、


ドガガガガガガガガンッッッッッ!!!!


 前線の近くで立て続けに爆発が起こったんだ。


 咄嗟に爆発のした方を見ると、空になにか(・・・)がいる。

 そのなにか(・・・)は空に静止しながら、魔法を次々に下にいる魔物たちに放っていった。


 俺は最初そのなにか(・・・)が人間、それもあの少女だとはわからなかった。……まぁ今でも信じられねぇけどな。


 なにせ開戦前に会った時と雰囲気が違いすぎた。怒りか悲しみか恐怖か、そんな負のオーラを纏った強大な魔力の波動を感じた。一体彼女に何があったのだろうか?


 戦いは圧倒的、そして一方的な蹂躙だった。最早「戦い」とも呼べないだろう。俺たちが前線から引いてから先は、勿論打ち漏らした魔物は数体倒したが、俺たちではなくあの少女が1人でほぼ全ての魔物を倒したと言って過言ではない。


 まったく……。あの少女、ただ者じゃねぇとは思っていたがまさかあんなバケモンだったとはな。いや、俺は薄々感づいてたがな?


 スタンピードから一夜明けた今、彼女は今や街を救った英雄として冒険者たちの話題を席巻していた。そりゃああんなバケモンみたいな戦いぶりを見せられたら話題にならない方がおかしいだろうが。


 しかしそんな話題の中心人物は戦いの後、まったく姿を表してはいない……


「おーい!早く行こうぜ!」

「あぁ。今行く」


 彼女の動向については気になるところだが、今日は冒険者の仲間とスタンピードでの報酬で飲み明かすのだ。


 俺は思考を一旦中断すると、仲間たちの方へと歩き始めた。










 オレは彼女の魔法を体感した。

体感したというよりは、理解の範疇を超えていたのだが。


 さっき起こった事を話そう。

 オレは彼女と今回のスタンピードについて話をしていたんだ。そしたら彼女は急に黙り込んだかと思うと、なんだか焦りとか恐れとかそんな表情を浮かべて飛んで行ったかと思うと、未知の魔法によって魔物が次々に倒されていったんだ。


 何を言っているのかわからないとは思うが、オレも何が起こったのか理解したくない。あまりの強大な魔力に頭がどうにかなりそうだった。だがこれはさっき、実際に起こったことだ。


 彼女は最早、ただの魔法使いとかそんなチャチなもんじゃあ断じてないと断言出来る。寧ろ人間じゃないと言ってくれた方がまだ理解できる。



「彼女は、一体何者なんだ……」



 そんなオレの呟きは、誰にも聞かれることなく木枯らしに打ち消され冬の空へと消えた。













 明け方、魔物たちが引き始め、スタンピードが終息した。


 それまで一晩を通して空に浮かびながら魔物たちに魔法を放ち続けていたユナ。その姿はかっこよくて、ちょっぴり怖くて、そして何よりユナはやっぱり凄かったんだと改めて実感できた。







 戦いが終わり、ボクたちがユナを労おうと駆け寄ろうとしたその瞬間。


 ユナはふらりと後ろ向きに倒れたかと思うと、飛ぶ力を失ったのかそのまま落下しはじめた。


「ユナ!?」


 ボクは咄嗟に走り出した。でも間に合わない。



「ユナーッ!!!!」




 ボクの叫びも虚しく、





ドスンッ!!





 地面に鈍い音が響いた。











 ボクは急いでユナの元に走りよると、恐る恐るユナを見る。


 地面は少し窪んでいる。

……でも、そこに横たわっていたユナにはキズ1つ付いていなかった。


 ボクは安心してか、その場にへたりこんだ。……緊張が一気に解けたのもあってか、なんだか上手く力が入らず立ち上がることができない。


 ……n十メートルも落ちたのだ。普通なら……考えたくない。

それで無傷というのは、地面が土だったからかユナが元々頑丈だったか。



 とにかく、無事で良かった……。



 ボクがそう安堵する。


 だけど、そんなボクの思いはあとから駆けつけてきたマリンの一言によって崩れ去った。



「気を失ってる……?意識がない……それにすごい熱っ!?これはヤバいわ……最悪命に関わるわよ!?」



 そういうとマリンはハンスを呼んで、ハンスにユナを運ぶよう頼む。ハンスがユナをお姫様抱っこのようにして運んで行った。


 ボクがその場にへたりこんでなにも出来なかった間にも、事はどんどん進んでいって、ユナは街の治療院に運び込まれた。


 午後になってマリンや街の回復系魔法が使える冒険者たちによって治療が施されたけど、どうやら病気や怪我の類ではないらしく、効果はなかった。

 ユナが自分で作っていたポーションも使ってみたけど、あまり変化は見られなかった。







 そして、ユナが目覚めないまま3日が経った。













 日が傾き、街の外縁部にある治療院の窓に夕日が差し込んでいた。


 ベッドに寝かされた1人の少女……の横に置いてあるイスに腰掛けて辛そうな顔をする1人の少女。俺は彼女、ノスティに話しかけた。


「夕飯……食べに行かないか?」


 俺がそう言うと、ノスティは振り向かず俺に背中を向けたまま答えた。


「いや、いいよ。ボクはここにいるよ」


「……もう3日もそうしてるじゃないか」


「……夜はちゃんと寝てるよ」


 そう小さな声で言うと黙ってしまう。


「……責任を感じているなら、ノスティのせいじゃないと思うぞ……?」


 俺がそう言うと、ノスティはしばらく俯いて、消えそうな声で呟いた。


「……違うんだよぉ……」


 そう言ってこちらを振り向く。


「ユナがぁ……ユナがぁ……!」


 そう言って泣き出してしまうノスティ。

「ユナが」の続きは、なんとなくわかった。

きっと「死んでしまうかもしれない」とかだろう。


 ノスティにとって、ユナはきっと俺たち以外では唯一と言っていいかもしれない心を許せる存在。そして、彼女が一生引け目を感じたかもしれないこと、その運命を魔法によって変えてくれた恩人でもある。


 そんな、唯一無二の大切な存在が、目の前で倒れている。

 それなのに、自分はなにも出来なかった。

あまつさえ無事だと思って。


 そういったことが、ノスティの心を縛っているのだろう。自分の不甲斐なさを自分で責め続けているのかもしれない。

 ノスティは元々優しい性格だ。自分より相手のことを考える。だからこそ、なのかもしれない。


 それに、彼女は彼女のおじいさんとの死別を経験している。自分にとって大切な人を失うということが、どれだけ辛いことか。

 俺は、まだ知らない。だから安易に知ったような口は聞けない。

 だから俺は簡潔に、ノスティの顔を見て言った。


 ユナならきっと大丈夫だと。


 すると、ノスティは無言で俺の方へと歩み寄ると俺の胸のあたりに顔を沈めるようにくっついてきた。


 普段はクールなノスティはそんなことはしてこないから、少し驚いた。きっと、まだ不安なのだろう。


「……うん。」


 しばらくくっついたあと、小さな声でそうノスティが呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。









 その後もノスティがしばらくくっついていたので、夕飯に行くのがだいぶ遅くなってしまったけど、それは仕方のないことだろう。



ノス×アラの関係性について1回深く書きたいです。ただ文章力が絶望的に足りない……()

次回でスタンピード編は終わりとなります。


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新作連載始めました!こちらもよろしくお願いします!! TSして女の子になったけどいつでも戻れる僕の日常
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