#39 TS美少女とギルドマスターは合流する。
お待たせしました。
年度末は忙しすぎる……
エドについて街の北通りを走るオレたち。
……さっきからノスティがずっと魔女のことを話してたんだが、後ろから見てるとそれが今日あったことを父親に報告する娘みたいに見えてきて微笑ましい。というかよく雄弁に話しながら走れるよな。
ノスティがかわいかったのはひとまず置いておくとして、問題はその魔女だ。
……いや問題って言うほど問題では無いのだが、どうやら噂にあった「未知の魔法を使う」というのと「美少女」は合っているらしい。
オレが特に気になったのはその「未知の魔法」の部分だ。
オレも長いこと冒険者をやっているが、話を聞いた限りでは聞いた事ないような魔法ばかり。中には物凄い威力を持った魔法もあったらしい。
それが友好的なうちはいいが、もしその力がオレたちに向けられたら……?そう考えると寒気がする。
それも話を聞いていると、その魔女は常識はないけど知識と良識はあるようだったからまぁ問題ないだろう。
……ロリババアとかじゃねぇといいがな。
走ること数分。オレたちは街の北門に着いた。
この門だが、昨日の時点で既にエドが閉めておくよう指示を出していた。
魔物大暴走がいつ起きるかも分からないし、まぁいないとは思うが、状況を全く把握していないやつが外に出てしまうともわからないからな。
お陰でまだ昼間だというのにも関わらず扉は固く閉ざされていて、なんだか緊張感も漂う。
この門が夜間以外で閉ざさることなんか10年に1度あるかどうかだから、事の重大さがわかるだろう。
オレたちは大門の脇にある通用門をギルドカードを使って開け、城壁をくぐると街の外へと出る。
そこには、顔なじみであるマリンにハンス、
そして、美少女がいた。
◆
アランとノスティが街に入っていってからしばらく経った頃。
「あ、帰ってきた」
そう呟いたマリンの声に、意外と早かったなぁと思いながら私は作業の手を止めて門の方を見る。
……あれなんか人増えてる?
「おかえりー。この人たちは?」
こっちに向かってきたアランたちに私がそう言うと、増えた人のうちの片方の男が前に出てきた。
強面で渋い感じの初老のおじさん。大体50歳ぐらいかな?
右腰には片手剣を装備している。きちんと手入れされているけど、かなり使い込まれてるように感じる。
そして身体中に細かい傷があるのを見ると、この人は冒険者なのだろう。それもかなり強い。
「俺はここグラシスの街の冒険者ギルドのギルドマスターをやってるエドヴァルドだ」
「私はユナです。よろしくお願いします。」
私がそう返すと、エドさんはそう言うと右手を伸ばしてきた。……どうやらこの世界でも握手はあるらしい。
私も右手を差し出して、軽く握手をする。
ちなみに今敬語使ったけど、実際には異世界語で丁寧な言い回しを日本語に直してる感じなんだよね。
「失礼だが、本当に君が東の森の魔女なのか?」
「えっと、はい。多分私です」
そう言ってもなお少し訝しめな目で見てくるエドさん。
「いや、随分と若いな……と思ってな。年齢を聞いてもいいか?」
そう言うと私の身体をちらりと見るエドさん。
確かに15歳ぐらいに見える美少女がひとりで魔女してるなんて不思議に思うだろう。私でもそう思う。
「15歳ぐらいに見える」と言っても私自身が15歳だからそれはどうしようもないし、変に年齢を騙るより実年齢で名乗っていいだろう。
「はい。15です。たぶん」
「なるほど……?一応は成人してるから問題ない……のか?」
そう言ってエドさんはまたなにか考え始めたので、私は話を変えようとエドさんの後ろにたっていたもう1人の男の人に話しかける。
こちらも初老のおじさんで、背中に大剣を装備している。やっぱり強面だけど、エドさんと比べるとまだ話しやすそう。それでもやっぱり歴戦の戦士って感じのオーラが漂っていて、只者ではないことを感じさせる。
「はじめまして。ユナです」
「オレはギースだ。よろしくな」
ギースさんとしばらく話していると、考えが纏まったのかエドさんが話しかけてくる。
「ユナちゃ…さん。ギルドとしては君のことを認めるよ」
「ありがとうございます。あとユナでいいです」
話を聞くとギルドとしてとりあえず私を認めてくれたらしい。これでとりあえずひと安心だ。
信用は今後積み重ねていけばいいだろう。どうせ時間はいっぱいあるんだし。
「わかった。ユナ、君は「魔物大暴走」については知っているか?」
「ええ。まぁノスティから話を聞いた程度ですが……」
そう言って私は魔物大暴走に対しての認識を伝える。何回かは補足は入ったけど、大体間違っていなかったようでエドさんは頷く。
それからエドさんは街側の動きも簡単に説明して、こう言った。
「それでだ。ユナ、君は回復治癒系の魔法を使えるか?」
「えぇ。まぁ、それなりには使えますよ」
私がそう言うと、
「もしユナが「それなり」だったら世の中の魔法使いなんてみんなザコよ」
とマリンがぼそっと呟く。
ええと……それは流石に言い過ぎだと思うんだけど。
そんなマリンの呟きを聞いていたのか、エドさんは意を決したように私の方を向き直す。
「如何せん急な事だったから、回復治癒系の薬や魔法の使い手が足りてないんだ。本来なら冒険者以外の参加は出来ないんだが、それは俺の権限でなんとかしよう。前線には出なくてもいい。だから頼む。手伝ってくれないか?」
そう言って真剣な顔でこちらを見てくるエドさん。
その目は真っ直ぐで、本気で街を守りたいという決意を感じた。
「わかりました。お手伝いしましょう。……まぁ元々そのつもりでしたしね」
「助かる。……ところで、そこに置いてあるのは一体なんなんだ?」
そう言ってエドさんが指さしたのはさっき私が大量に創ったポーション類。丁度いいじゃん!
「回復と治癒のポーションです。よかったら使ってください」
私がそう言うと、エドさんは「中身を確認させてくれ」とそれぞれ1つを手に取ると、じっと見つめる。たぶん「鑑定」をしてるのだろう。
しばらくして、ポーションから目を離したエドさんは
私に向かってものすごい勢いで頭を下げてきた。そんななの!?
「本当にありがたい!これがあれば、誰も死なせずに済むかもしれない……!」
そうしてしばらくの間頭を下げていたエドさん。
よく見ると少し泣いているようにも見える。
……それほどまでに、街のことを、そして街の冒険者のことを真剣に思っているんだろう。
あ、この人めっちゃいい人だ。
しばらくして頭を上げたエドさんは「こうしてはいられない。回復と治癒のポーションが手に入ったことを伝えなくては……!」と再び街の中へと消えて行った。
街に戻って行ったのはエドさんだけで、ギースさんは着いていかないのかと思って見ると、ノスティとマリンと何やら話していた。
私はポーションを創るのを再開する傍ら、もう一度森の方を索敵する。
森にいた魔物の数はさっきよりも明らかに増えていて、私は少し身震いするのだった。
アラン「今回俺ら空気じゃね?」
ハンス「それな」
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