#38 ギルドマスターと少女は街を守るため行動する。
翌日。
ギルドマスターとして、街を守るために俺はほぼ徹夜して対策を練っていた。
徹夜自体は現役時代に何度も経験しているためそれほど苦ではない。しかし、この状況には流石に頭を悩ませてしまう。
「……やはり薬や回復薬が圧倒的に足りんか……」
そして夜が明け冒険者達が再度動き始めたところで続々と入ってくる新しい情報。その中で、特に多かった訴えが「薬や回復薬が足りない」というものだった。
「ギルドの在庫は?」
「既に参加冒険者に、1人ひとつ配布済みです」
俺がポツリと声に出したその言葉に、同じく徹夜で作業をして目に若干クマをつけたネレスが答える。
「それでは足りぬでは無いか!」
寝不足も相まってか少し感情的に怒ってしまう。いかんな。
「すまない」
そう言って俺はコーヒーを淹れ、飲む。
少し目が覚めた。
「……なんとか隣街から融通してもらうことは出来ないのか……?」
俺はネレスにダメ元で問いかける。そしてネレスから帰ってきた返事は、悪い意味で予想していた通りのものだった。
「難しいかと……。隣街でも回復薬は使われますし、そもそも隣街まではいくら飛ばしたところで2日かかります。早くて5日、いえ魔物大暴走が起こりそうなところにわざわざ行く馬車などないでしょうから交渉も含めて1週間は見るべきでしょう。多分、間に合いません」
「やはりそうだよな……」
回復薬が足りない。だがどうすることも出来ない。
回復薬がなければ、あとは回復術士や治癒系の魔法が使える魔職冒険者に頼るしかない。
だが、今この街にいる冒険者たちではあまり期待は出来ないだろう。
こんな時に期待の新人と言われたマリンがいれば……そう思ったところで、血の気が引く。
……1ヶ月ほど前に、俺はあのパーティーを指名してある調査をさせに北部の森へ向かわせた。
調査内容としてはまぁ多分大丈夫だと思うが、北部の森やこの街に帰ってくる時に通る街道沿いの森には、現在大量の魔物が跋扈している。
あいつらは無事に帰って来れるのだろうか……
その時だった。ギルドの入口が騒がしくなる。
カウンターから身を乗り出して見てみると、噂をすれば、と言うやつなのか、そこにはC級冒険者のアランとノスティがこちらに向かってきたところだった。
よく今の状況で無事に帰ってこれたな。
……そういえば、アランのパーティーは4人だったはずだが、なぜ2人なんだ?
俺がそう思っている間にも、ノスティが俺の方に詰め寄ってくる。
ん?……ノスティ、なんだか更に可愛らしくなってないか……?いや、前もすごく可愛かったんだが、なんだか女性的な魅力が増えた気が……いかんいかんこれではただのセクハラ親父ではないか!!!
深夜テンションとはかくも恐ろしいものなのかと戦慄する。
「ギルマス、急ぎの話なんだ。簡潔に答えて?
ギルドはどこまで把握してる?」
ノスティはカウンターに手をつっぱらせると、俺の方を若干上目遣いで見てくる。
然しながらその顔は険しく、覇気を纏っているようだ。
「あぁ。魔物大暴走のことなら把握しているが……」
「それがどのぐらいの規模で、いつ発生するかは?」
「かなり多い、すぐにでも。」
そこまで言うと、ノスティは安心したかのように胸を撫で下ろす。
「そういえば、……他のメンバーはどうしたんだ?」
俺は真剣かつ神妙な顔で問いかける。
出発時よりパーティーの人数が減っている、というのは冒険者の中では結構ある。だから、思ったのだ。あぁ2人は……と。
しかし、ノスティから出たのはは予想外の言葉だった。
「あー……。2人ともピンピンしてるよ。今は門のすぐ外でユナと一緒に外を警戒してる」
その瞬間、「あぁダメだったのか……」としんみりしていた冒険者達がズッコケる。
「生きてるんかーい」と心の中で総ツッコミが入った。
今の流れで、周りの冒険者たちの緊張も少し溶けたようである。これをもし意図してやったのなら、すごい才能だろう。
俺がそう考えている時、1人の冒険者がノスティ達に問いかける。
「ところで、ユナって誰だ?」
「あっ、ユナはねー…………」
◇
ノスティとアランの説明を聞き、俺は今かなり驚いていた。
今、この街の入口には「東の森の魔女」がいるというのだ。
もし彼女が街のために動いてくれるのならば、魔物大暴走の防衛は多少なり楽になるはずだ。
しかし、魔女というのは悪いやつもいる。今のノスティやアランの話を聞いてみたところは裏表のない善良な性格のようだったが、本当にそうなのだろうか。
これは俺が直接会いに行くしかないだろう。
……まぁ上のやつは半分建前で、本音を言うと「東の森の魔女」というのがどれほどの存在なのかってのを知りたかったからなんだけどな。
魔女など変人が多いものだと相場が決まっているし、最初はあまり期待してなかったのだが、ノスティの話を聞いていくうちに、「未知の魔法を多数使う魔法使い」に興味を持ったのである。
……決して、おばさんぐらいだと思ってた東の森の魔女が見た目15歳前後の少女だと言われたからではない。決して。
これは街を守るためなのであり、必要なことなのだよ。
ギルドを出ようとしたところで、今まで隅で寝ていたギースが起き上がり、「俺も連れてけ」と言った。
どうやら聞こえてはいたようなので、ギースも東の森の魔女というのに興味があるのだろう。
ギースの準備が終わると、俺たちはギルドを出る。
まもなく冬というだけあって、吹き付ける風はかなりひんやりとしている。
木枯らしの吹き付ける中、俺たちは北の門へと続く道を走って行ったのであった。
次回、久しぶりのユナ登場!
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