#36 ギース・クリムは森を調査する。
オレとエドが椅子に座ると、さっきの職員がお茶を持ってきた。そしてお茶を出し終わると、一礼して部屋を後にする。
配慮が行き届いているなと感心するオレに、エドは少し誇らしげな顔をする。
「……お前のことじゃないぞ?」
「わかってるさ。自分の部下が優秀だったら嬉しくなるだろ?」
なるほどな。確かにそんなもんしれない。
オレは部下は持ってないが冒険者の後輩は何人もいるし、気にかけてたやつが昇級したりした時には俺まで誇らしくなる。
「さて、本題に移るとしようか。」
エドは今までの表情から一変して真剣な顔つきになる。
「俺を呼んだってことはあの件だろう?「森の魔物の数が異常に増えている」ってやつ。冒険者達の間でかなり話題になってたぜ?」
「あぁ。話が早くて助かる」
「でもよ、これでもし本当に魔物大暴走が起きるのならおかしくねぇか?だって前回はたったの7年前だろ?」
「俺もそれを不思議に思ってるんだ。だからこそのお前だ。」
「……つまり、俺に調査をやれと……?」
「そうだ」
「オレ1人でか……?」
「そういうことになるな」
……あぁ、そうだった。
そういえばこいつは昔からいきなり無茶言ってくる性格だったっけ。
「無茶言うな……オレはもうすぐ50だぞ?若いヤツらの方が体力もあるはずだ」
「確かに若いヤツらの方が体力はある。だが若いヤツらは魔物大暴走をよく知らないだろう。」
「あーたしかにそうかもしれんな。」
「前回の魔物大暴走の時に成人の15歳だったとしても22、実際には15歳から冒険者をやる奴は多くないし、魔物大暴走の迎撃に出られるのはD級以上だから、実際に経験した世代は25歳より上になるだろう。そうなるとそいつらはそれぞれ家庭を持ったりしている訳だ。」
「だから老い先短い独身のおっさんをこき使おうってのか」
「まあ、そういうことだ。なにもそれだけが理由じゃないがな。このギルドで魔物大暴走を2回経験したやつは、俺とお前以外にはもういないだろう?」
確かにそうだ。気がつけばオレたちはギルドの最高年齢となっていた。そのことをすっかり失念していたのだ。
「ということで、だ。この依頼は経験豊富で信頼ができ、身の上の心配もなく、一人で行動できるだけの実力があるお前にしか出来ないんだよ。」
なるほどな。確かにここはオレが行った方が良いだろう。
実力ならエドの方が上だが、もしも本当に魔物大暴走が起こるのならばそれ相応の準備をしなきゃいけなく自分は手が離せないからオレを行かせる。
実に合理的でいい判断だ。
「わかった。その依頼受けるぜ。指名依頼だから割増料金貰うぞ」
「わかってるさ。準備しとくよ」
そういうと、エドは執務机の上にあった1枚の書類を渡してくる。
「それを受付カウンターに出せば手続きしてくれる」
「わかった。それで、いつまでにやればいいんだ?」
「できるだけ早く。出来れば明日」
「明日だと!?今日はもう昼を回っているぞ?」
そういうオレに、エドは真剣な顔でこちらを見つめてくる。その顔を見て何となくだが察した。
あいつも自分が無茶言ってるのはわかってるのだろう。
それでも、もし、本当に事が起きるのならば。事が起きる前に対策を練らなければ、多大な被害が出るだろう。
「……「起こる」というていで進められないのか」
「冒険者たちに注意喚起することぐらいはできる。ただ、今の段階では情報が不足しすぎている。だから強制的な措置は取れないんだ。だからこそのお前の調査な訳なんだよ。」
「……冒険者ギルドの自由の原則がこんなところで邪魔になるとはな……」
「全くだよ」
「わかった。とにかく近隣の森を調査してみる」
「あぁ。頼む」
オレはギルドマスター室から出ると階段を1段飛ばしで駆け下り、受付カウンターでの手続きを済ませると一旦自分のボロアパートへと戻る。
装備品を整えたオレは、街の外へと早歩きで歩き始めた。
◇
「なんだ……この量は!?」
森に入ってから数時間。
今オレは普段の数割増で増えた魔物たちに襲いかかられていた。
「クソ……キリがねぇな……」
しかも襲ってくる魔物の多くはEやD級だが、稀にCやB級も見た。だからBの処理に手間取っている間に雑魚が襲ってくる。一瞬たりとも気が抜けないのだ。
「うぉぉおおおお……!!!」
◇
夜になった。
魔物は相変わらずたくさん居るが、夜は活動しないものも多いので絶対数は少ない。
ただ夜型の魔物は強いものが多く、油断はできない。
「ワオオーーーーーーーーーンッッ!!」
遠くでウルフの鳴き声が聞こえる。
そのうちこちらに気づいて襲ってくるだろう。
ウルフはD級だから単体ならそれほど苦労しないんだが、あいつらは固まって行動しやがるから面倒くさい。
ただそれ以上に問題なのが、この魔物は本来はもっと北の森にいるはずなのだ。
それがこんな街の近くまで来てるということは……っと!!
「来るなら来い!」
「ガルルルルルルルッッ!」
◇
一晩中戦い続けて、遂に朝になった。
一睡もしてないから流石に疲れているが、まぁ問題ない。
ついさっき、ロックゴーレムと戦った。
ロックゴーレムは普段北部辺境の山間の岩場にいるはずの魔物だ。
それがここまで下りてきている。
これはもう間違いないだろう。
「魔物大暴走」は起こる。
オレはそう結論付けると、街を目指し森を抜けるのだった。
ユナ「作者さん私の出番は……?」
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次回更新は土曜日の予定です。
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