#33 少女のスタンピードの記憶。
ノスティ視点です。
「と…とにかくみんなに知らせないと……!」
ボクはそう言うと、街に向かって駆け出した。
今までの状況を整理すると、魔物大暴走は十分起こりうる。
魔物大暴走とは文字通り魔物が暴走してくる現象のことだ。普段はバラバラに生息している魔物が集団になって突っ込んでくるこの現象のことだ。
原因は正確にはわかってないけど、天変地異や魔力の流れが変わったことによって起きると言われている。大体20-30年おきに起きると言われている。
そもそも、何故魔物たちは街に押し寄せてくるのか。
それはどうやら街の近くは魔物がいないor少ない一種の空白地帯になっていることが関係しているらしい。だからこそ先人たちはここに街を作ったのだろう。だけど暴走した魔物たちは他の強い魔物のいない場所を求めて行く。だから魔物たちは街に向かってくるのだ。
別に街の近くに来るだけでしょ?って思うかもだけど、そのまま放置していたら街の外は昼夜問わず魔物が闊歩する危険なところになっしまう。
普段は街の近くであれば街の冒険者が狩るために魔物の数は低い数を保っている。そうすることによって街の周りは安全に保たれ、低ランクの駆け出し冒険者が薬草採集だったりEランク魔物を倒しに行けたりするのだ。
だから街に来た魔物は倒さなくてならない。自然に引いてくれるのが1番なんだけど、そうはならないしね。
魔物大暴走が起きた時には、冒険者たちが魔法や剣を使って押し寄せる魔物を倒していく。
交代しながら休む暇なく戦い続けて数を減らす。8割ほど倒すと魔物たちは自然に引いていくのでそこで終了となる。そこまでには死んじゃう人もいっぱい出る、とても危険なものなのだ。
だから、普段なら万全の体制を整えるために、少なくとも1ヶ月ぐらい前からギルドで注意が流れるはずだし、長期の依頼は中止されるはずなのだ。なのに今回3週間前に街を出たときにそんな話なんか全く聞かなかった。
つまり、それはギルド側で魔物大暴走の兆候を把握していなかったということになる。ということは、まだ他の冒険者が街の外にいるかもしれない。
ボクたちのようなCランクの冒険者ぐらいだったらまだなんとかなるかもだけど、例えば薬草採集に出たEランクの新人くんが複数の魔物に囲まれたら?きっと生きては帰れないだろう。
流石に街に迫った今の時点で兆候を把握してないほど無能なギルドでもないと思う。けど、最悪の場合を考えて一刻も早く知らせるに越したことはない。だから、急がなくては。
別にギルドを責めるつもりはさらさらない。それに、今回ギルドが油断していた理由もなんとなくわかるしね。
だって、前回の魔物大暴走は7年前に起こったのだから。
前回の魔物大暴走の時は、ボクがおじいちゃんのところに来てから1年がたったぐらいのときで、ボクたちは丁度街に来ていたときだった。おじいちゃんも戦いに行ったので、気になったボクは街の周囲を囲む防壁に登って戦いを見ていた。……そのあと巡回していた憲兵さんに見つかってめちゃめちゃ怒られたけど。
アランたちがピンときていなかったのは、まだ小さかったからっていうのと、街の中では外の様子があまり分からなかったからだろう。
ちなみに、外での戦いはとても壮絶で、苛烈だった。そう言っておこう。
それにいくら回復魔法があるとはいえ、大半の人が使えるのは止血や軽傷の再生ぐらいで、四肢欠損とかは術者が余程高位でないと出来ないし、死んじゃった人を生き返らせるとかはともってのほかなのだ。……ユナの魔法の凄さを改めて感じる。
魔物大暴走。少なくともあと10年は起こらない。だれもがそう思ってただろう。実際、さっきまでボクもそう思ってたしね。
そこまで考えてふと後ろを振り向くと、ボクがいきなり走り出したのにアランたちもちゃんと後に付いて来ていた。
ボクは安心すると、気力を振り絞ってスピードを上げる。街まではあと少し。もう街の防壁もかなり近づいてきた。
冒険をする中でかなり体力はついたけどそれでも走力には限界があり、更に女の子になったからかいつもより走りずらい。揺れるし。
ユナの家を出発した日に「なんか動きずらい」って言ったら、
「骨盤とか肉づきとかいろいろ変わってるからねー。
慣れるまで大変かもだけどがんば」
って言われた。
ここ数日である程度慣れたけどまだなんかちょっぴり違和感を感じる時があるんだよね。
ボクがこれ以上速度をあげられずにもどかしく思っていると、後ろから声が聞こえる。
「移動速度向上!常時回復!」
淡い光に包まれたかと思うと、疲れが消えて幾分か余裕ができる。これなら今までよりも早く走れるだろう。
ユナが魔法をかけてくれたのだ。相変わらずすごい。
「ありがとう!」
そう言って、ボクはさらに走る速度を上げた。
明日も更新します。




