#28 TS美少女は治癒をする。
「大変だぁーー!!!!」
広場に1人の男の人が駆け込んでくる。
……大変だーって言いながら走ってきても意味ないと思うんだけどなぁ……。まぁいいや。
走ってきた男にまずアランが声をかける。
「何かあったのか?」
「あんた達は?あぁ!外から来た人か?その格好だと冒険者だよな?治癒魔法が使えるやつはいるか?」
「あっ、あぁ」
「ならよかった!頼む一緒に来てくれ!俺の仲間が狩りの途中に魔物化した動物にやられて重症なんだ!!」
◇
村から走っておよそ10分、林を抜けて沢に出ると、血を流して倒れた男とそれを介抱する男が目に入る。
あれ?なんか既視感あるな……。
あ、そういえば昨日同じようなことあったじゃん。
「おい喜べ!!治癒が使える冒険者の人がいたぞ!!」
「なに!?それは本当か!?」
怪我人の介抱をしていた男は私たちの方を振り返る。
「それはありがたい!!コイツを助けてやってくれ!」
私とマリンとノスティで怪我人の側まで行くと、怪我人の方の男は苦しそうに呻く。
「かなり無惨にやられたようだね……。さっき見てた限りだと、もう1人の男が止血を試みるも止まりきっていない。このままだと長くは持たないだろう……」
ノスティがそう呟く。
「マリン行ける?」
「いや、悔しいけどこの怪我だと不完全にしか直せないと思う……。ここはユナがやるのがいいと思うわ」
「わかった。ハイ・ヒールッ!!」
私が短縮詠唱で回復魔法を唱えると、怪我をしていた男を淡い光が包み込み、光が消えると男の身体は無事に元通りとなる。
マジで回復魔法ってチートだよね。
◇
「う、うぅ……俺は?」
しばらくすると、怪我をしていた男が目を覚まし、起き上が……ろうとして後ろに倒れてしまう。
「あれだけ出血してたんだから血が足りてないんでしょ。しばらく安静にしてなよ」
「あっあぁ……助けてくれて本当にありがとう。俺はケイン。えっと君の名前は……」
私が名乗ると、ケインはなにか引っかかったようでぶつぶつと呟く。
「ユナ、なんかどっかで聞いた覚えがあるんだよなぁ……
……東の森の魔女!!」
東の森の魔女!?なにそれ!?
なんか知らない間に変な二つ名ついてるんだけど!?
……ん?まてよ?それってどっかで……
◆
「私はユナ。ユナ・ナンシィ・オーエン。
東の森に住んでるただの魔女さ」
(14話参照)
◆
はい私ですねめちゃくちゃ言ってました本当にすみませんでした!!なんなんこれ。この時の私厨二すぎない?完全にイキってるよね!?なにが「魔女さ(フッ)」だよ!?頭おかしいんじゃないの!?
あぁ……この時の私を殴りたい……
……
「きゅぅ……」
恥ずかしい過去の言動を思い出した私がその後再起動するまでしばらく時間がかかった。
みんなも黒歴史作らないように気をつけようね!ほんとに!!
◇
私が使い物にならなくなっている間も、ケインたちは話をしていた。思考力は落ちても周りの話し声などは聞こえてくるのである。
「お前この子知ってたんか?」
介抱していた方の男が聞くと、ケインが答える。
「あぁ、ほらメリザさんとこのマーシャちゃんがいなくなった時に箒に乗って来た子だよ」
「あー!!あの時の!!」
男たちはまだ日があまり経ってないのもあってかあの日の出来事を鮮明に覚えていたようで、口々にその時のことについて話す。
まぁ、「空飛ぶ箒で現れ行方不明の子供を送り届けその親を未知の魔法で完璧に治療して立ち去った謎の少女」をこの短期間で忘れる方が難しいだろうけどね。
でも、その時の私はマーシャちゃんを送り届けるのを優先したから殆ど顔は見られてないはず……と思ったところで、そういえばマーシャちゃんの家を出たところでケインと会話してたことを思い出す。
というか、なんでバカなことを口走ったのかって、この人に名前を聞かれたからだ。
なんで余計なことを言っちゃったんだろう私。
……ははははは…は………死にたい。
◇
若干病みモードなれどとりあえず復活を果たした私は、ケインたちの方へと向かう。
私が来たことに気づいたのか怪我をしていた男がこちらを向き直ると口を開く。
「改めて、俺を助けてくれて本当にありがとう。魔女様がいなければ死んでいたところだった。」
「どういたしまして」
……できれば魔女様は恥ずかしいからやめて欲しいのだけど……私がその旨を伝えると、彼も了承してくれる。
「それにさ、この前だってマーシャちゃんを送り届けてくれただろ?
そして、メリザさんを治してくれた。まぁ、その……なんて言うか……あれだ。実は俺、若い頃に惚れてたんだ。結局はあいつに取られちまって、悔しかったけど祝福してやったんだ。そうしたらあいつ、嫁と娘残して死んじまった。 それ以来、メリザさんの笑顔に陰る時があってなぁ、あそこの家は度々気にかけてたんだよ。
……話が逸れたな。まぁ何が言いたいかって言うと、あんたには感謝しても感謝しきれねえってことだ。この恩は忘れねぇし、返さなきゃならねぇと思うんだ。
……という訳で、これ。受け取ってくれ。」
そう言うと、ケインは腰に下げた袋の中から硬貨を取り出すと、私に手渡す。
見てみると、そこには1枚の金貨があった。
えっ金貨!?マジで!?
「金貨?これもらっていいの?」
「あぁ、10000s金貨だ。贅沢しなきゃひと月は暮らせる額だぞ?悪いがこれプラチナ貨は持ってないんだ」
10000sがどのぐらいかわからないけど、「贅沢しなければひと月暮らせる」なら10万円ぐらいかな。正直に言えば今丁度欲しかったお金が手に入ってめちゃくちゃ嬉しい。だけど10万円と言えばそれなりの大金。ポンと出して大丈夫なのだろうか……?
「嬉しいけど、大丈夫なの?」
「あぁ、受け取ってくれ。金ならまた貯めればいいさ。元々死ぬはずだった身だしな。」
ケインはそう言いながら笑う。
そうならば、私も遠慮なく受け取っておこう。
こうして、私はお金を手に入れることができたのであった。
◇
全て終わってふと空を見上げてみると、来る時傾きかけていた太陽は既に沈みきり、東の空には星が輝いていた。
「ユナー!お腹すいたー!帰ろー?」
少し離れたところでマリンとノスティが叫んでいる。そう言われると、なんだか急にお腹がすいてきた。
ケインたちに声を掛けると一緒に帰るとの事だったので、私たちは村に歩いていくのだった。
◇
「「「「カンパーイ!!」」」」
村まで帰ってきた私たちは食事のために村の食堂に来ていた。
ケインたちも一緒の食堂で食べると言うので、折角だからとみんなで一緒に食べることにしたのである。
ちなみにこの世界では15歳が成人なので私もお酒が飲めるという訳だ。やったね!
ということで、人生で初めてお酒を飲んだ私は
案の定めちゃくちゃ酔ったのだった。
◇
翌朝。
「知らない天井だ……」
ここはどこだ……?えっと、私なにしてたんだっけ……?
なんだか頭がズキズキする。……これが二日酔いってやつか。
ああそうだ、思い出した。
昨夜は食堂からなんとか宿屋まで戻るとそのまま泥のように眠ってしまったのだ。
私は頭にヒールをかけ、全身にクリーンの魔法をかけて支度する。
転生して以来ずっと使っている鏡で髪を整えると、朝食を食べるべく階下へと向かう。
カウンターで注文をして席へ向かうと、そこではアランたちが既に朝食を食べていた。
「おはようユナ。そろそろ起こしにいこうかと思ってたところだったよ」
ノスティがパンを頬張りながら答える。
その姿は小動物を連想させる可愛さがあった。
……?アランハンスマリン?何その目……?
「ユナおはよう〜昨日は凄かったわね……」
「ユナ、お酒はほどほどにしといた方がいいぞ」
「ふにゃふにゃになってるユナを見るのも楽しかったけどな」
……えっ、マジっすか……?
そこまで思ったところで私の朝食が運ばれてきた。この件はあとでノスティにでも聞くとして、とりあえず朝食を食べるとしよう。
ちなみに食べ終わってからノスティに聞いたところ、私は甘え絡み系の酔っ払い方だったそうな。
……全く記憶にございません!
……
飲酒する時は気をつけよ……。
◇
諸事を済ませたら、いよいよ出発だ。
出発のときには、マーシャちゃんや昨日の3人も来てくれた。
「ユナおねえちゃん、またね!」
「あぁ、是非また来てくれ。何度も言うが、本当にありがとう。」
「うん。また来るね!」
私はマーシャちゃんの頭をなでなですると、ケインにも会釈する。
「……魔物化した動物が各地で増えているらしい。昨日だって、普段はあんなところに魔物なんか出るはずがないんだ。だから油断していた。あんたならなら大丈夫だろうが、一応気をつけてくれ!」
「わかった。ありがとう!気をつけるね。」
各々別れの挨拶を終え見送りに来てくれた村の人々に手を振られながら、私たちは村を出て進んで行くのであった。
《ケインについて》
怪我をしてた人がケインです。あとの2人はモブ。
ケインは実は12、13、14話でも出てきてます。
昔メリザさんを巡って熾烈な恋の争いを繰り広げたとかいないとか。ちなみに名前は5秒で決めました。
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