#17 TS美少女はようつーばーになりたい。
私は改札を出て、駅前の通りを進む。
最近この辺りは再開発されたようでかなり綺麗だった。
デパートはもう既にクリスマスムードで、そこかしこに鮮やかな装飾が施してある。
よく見たら街路樹もイルミネーションが付いていたけど、昼間だから点灯していない。夜に来ればなかなかいい感じだろうけど、別にそこまでして見たい訳じゃないのでスルーして先を急ぐ。
駅を出て5分程歩いたところにその書店はあった。私は前世で何度か来たことがあるからわかるけど、普通の雑居ビルに入っているので初見の人はわかりづらそうだ。
階段を上り、書店に入るとすぐにお目当ての本が陳列してあった。平日のお昼すぎに来たのにも関わらず、特典付きはもう残り少なかった。流石人気シリーズである。
私は目当ての本を手に取り、レジに向かう。
「おっ……?」
会計待ちをしていると、私はレジの横に置いてあった雑誌に興味を持つ。
「次の方どうぞー」
店員さんに呼ばれた私は、思わずその本も買ってしまったのだった。
◇
帰りは書店の近くの人影のない路地裏から私の家に転移してきた。あそこなら多分誰にも気づかれないから、今後書店に行く時にはそっちに転移しようと思う。
私は買ってきた2冊の本を眺めると、先に目当てだった小説を手に取り、ビニールを外して読み始める。
2時間後。
読み終わった。面白かった。
なんか前章が全体的に暗かった分なのか、作者の先生がギャグ寄りに書いてきたなという印象を受ける。また次巻が出たら買いに行こう。
小説を読み終わった私は、少しズレていた帯を綺麗に直すとアイテムボックスに仕舞う。
……問題は、もう1冊の方だ。
そこには「今人気のようつーばー特集!なり方やり方まで徹底解説!」と書かれたよくある雑誌が置いてあった。
ちなみに、ようつーばーはここ数年でかなり流行りだした新しい文化だ。
ようつべは11年ぐらい前にサービスが始まった動画投稿サイトで、ここ4-5年で一気にブームになった。
私も前世ではそれなりに見てて、何人か推しもいる。
何故私がこの雑誌を買ったのか。
それは、配信でお金を稼ごうと思ったからである。
聞いたところによると、ようつーばーは収益化をすることが出来れば、広告によるお金が手に入り、中にはそれで生活をしている人もいるらしい。
今の私はめっちゃくちゃ美少女だ。
今までならそれは自己評価でしかなかったけど、さっきのお姉さんは私から見たらかなりの美人であるにも関わらず、私のことを「めっちゃかわいい」と思ってくれたのだ。
それはかなり嬉しいし、自己肯定感が高まる。
それに私は魔法という唯一無二のアイデンティティを持っている。
つまるところ、
……私めっちゃかわいいから絶対人気出るよね?
↓
そうすれば収益化してお金が手に入るよね?
↓
そうすれば今まで以上に快適なぐうたら生活が出来る!!
という単純な思考回路であった。
それに今の私はほぼ無一文に近い。今ICカードに入っているお金が尽きたら何も買えないのだ。
これは早急にお金を貯めないといけない。
だけど、アルバイトとかで普通に地道に働くのは嫌だ。
だからようつーばーになれば、自分のペースで活動できて、お金も手に入るのだ。
私にとって、それは理想だった。
◇
チャンネルを作った私は、動画について考える。
初投稿の動画というのは重要だ。
雑誌を軽く読んだところ、収益化のためには登録者数を1000人まで増やさなければならないらしい。
スタートダッシュが上手く決まれば、その分収益化が早くなる。
一刻も早くお金を手に入れたかった私は、初動画からバズらせる気満々で、インパクトのある動画を作りたかった。
そこで考えたのが「美少女(私)がアニメ作品に出てくる魔法を再現する」動画であった。
「歌ってみた」とか「踊ってみた」は流行ってても、「魔法を再現してみた」はないだろう。
私は家の外に行くと、何発か自分の知っている魔法を放ち、それをスマホのカメラで録画して、特に編集をすることなくそのままようつべに投稿する。
題材がアニメだから、ついでに2525動画にもアカウントを作って投稿しておく。2525動画では稼ごうとすると嫌な顔する人もいるから、こっちであまり稼ぐつもりはなく、私を見つけてくれた人はようつべの方にも誘導するようにした。
これがどこまで伸びてくれるか楽しみだ。
◆
俺がその動画を見つけたのは、本当に偶然だった。
俺は、ようつべの動画を発掘するのが好きで、その日は好きなアニメの魔法シーンを調べていたのだが、画面をスクロールすると明らかに異色な動画を見つけたのだ。
「異世界の魔法で○○を再現してみた!」
再生回数は96回で、サムネイルも設定されていなかったが、俺はなんとなくその動画が気になってクリックする。
画面の中では、魔女っぽい服を着た1人の女の子が、俺がアニメで見慣れている魔法を放ってみせる。
「へぇ……!」
俺は思わず簡単の息を漏らす。この動画は2次元ではなく、3次元だ。
多分普通のカメラで動画を撮っているのだろう。
それにも関わらず、そこにはいつもアニメで見慣れてる魔法があった。
……合成だとしたらすごい技術だ。
俺も少し触ったことはあるが、こんなにも違和感のないものは作れないだろう。これはいいものを見つけた。
そう思ってチャンネル登録をしようと、右端の赤いボタンへ手を伸ばす。俺はTwitterに「面白いものを見つけた」と動画のスクショと共に投稿すると、また動画巡回作業へと戻ったのだった。
「ユナ・N・オーエン」
チャンネル登録62人
◆
ようつーばーを始めて数日目、登録者数は順調に増え続けていた。……まあまだ2桁だけどね!
ここ数日は毎日魔法の動画を投稿していて、大体1本につき100から200回程度再生されるようになった。
今日の動画を投稿し終わり暇になった私は、ふと思い立ち、改めてちゃんと収益化について調べる。
「えっ……」
すると、私はある重大な事実に気がついたのだった。
・チャンネルの認証には電話番号が必要
・収益化は18歳以上
・銀行口座もいる
※そもそも私はいるはずのない人間なので、身分証などないし銀行口座があるわけも無い。
「……あっ詰んだ……orz」
その日私はショックで立ち直れなかったのだった。
ようつべ→youtube、ようつーばー→youtuber
厳密に同じにしてしまうと不都合が生じるので同じような違うものとします。
いつも感想、評価、ブクマありがとうございます!!
評価と感想が執筆の励みになっております!
感想は些細なことでも構いませんので是非お願いします。




