#10 TS美少女は彼女なのか?
「あれ?ここは……?」
「ここは私の家だよ?君、私の家の前で倒れてたんだよ?」
「あっ……そうだった」
女の子は立ち上がろうとするが、すぐによろめいてしまう。
ヒールでケガは直せるけど、体力までは治すことはできない。女の子は倒れてしまうほどに疲労してたはずだ。ベッドで休ませたにしても、まだ足りない。
とりあえず女の子をソファに座らせて、私はあたたかいお茶を準備する。
「へくちっ……!」
私は鼻がムズムズして、思わずくしゃみをする。
なんとなくだけど、最近寒くなってきた気がする。
家の中でも、ストーブを炊かないとを入れてないと肌寒い。私が家の中では薄着でいることが多いのが悪いのだけれども。
ちなみにストーブは創造魔法で薪を出して「ウインドカッター」で割り、「ファイヤー」で着火するのでお手軽である。
斧で薪を割るのは面白そうだけど、時間がかかる上にめんどくさい。
……寒くなってきたということは、こっちの世界にも四季はあるのだろうか?あとで調べてみようと思う。
私はキッチン(としているスペース)に立って、付与魔法でお茶とクッキーにバフをかける。これも1週間ぐらい前に「エンチャントってかっこよくね?」と思って開発した魔法だ。
……実際のところやばかった。調子に乗って包丁に切れ味が良くなる付与をした結果、何も力を入れてないのにカボチャが真っ二つになって、まな板にもくい込んだ。
攻撃系の付与は使い所を考えなければ……。
一方で、回復支援系にも付与は使える。一般的に「パワード」とか「ブレッシング」とかがこれに入る。
話を戻して、私が今掛けたのは疲労回復のバフだ。食べれば疲れが少し取れる。完全に回復するわけではないが、ないよりはいいだろう。
バフをかけたお茶とクッキーとかのお菓子を、創造魔法で創った籠に入れ女の子の元に戻ると、女の子はお腹も空いていたのか、お菓子を見て目を輝かせるのだった。なんだこれかわいい。
「たべていい……?」
「どうぞ」
すると女の子はクッキーを口に頬張り、目を見開く。どうやら美味しかったようだ。お口に合ったようでなにより。
……もうちょいゆっくり食べればいいんじゃないかな……?……あぁ…こぼれてるって……
お茶を飲みながら話を聞こうと思ってたけど、どうやらそれどころではなさそうだ。
◇
女の子がクッキーを一通り食べ終えたので、私は質問をする。
「お名前は?」
「マーシャ」
「マーシャちゃんか〜いいお名前だね!」
「うん!」
どうやらこの世界においては異世界のお約束?の外国風の名前であるらしい。
……まあ中世ヨーロッパ風の異世界に太郎とか花子がいてもそれはそれで「は?」ってなるだろうし。
「おねえちゃんのおなまえは?」
「えっ私?」
私は名乗ろうとして、そういえばまだ名前を考えて無かったことを思い出す。
あくまで私の考えだけど、前世の私が死んだ時、その名前は死んだのだ。同じ名前は使えない。
今の私という存在には名がない。そう考えると、今の私は「何者でもない」のかもしれない。
……いいなそれ。
「私は、ユナ」
ユナ・ナンシィ・オーエンこれにしよう。
「Una Nancy Owen」
かの小説家、アガサ・クリスティの名作「そして誰もいなくなった」に出てくる名前だ。
この名前は「unknown」、つまり「何者とも分からないもの」とかけられていて、今の私にぴったりだ。
それにユナは日本語でもある名前だから、私の違和感が少ないのもいい。
「そう!ユナ・N・オーエンは私なのである!!」
ガタッ!
私はソファーから勢いよく立ち上がる。
そしてテーブルの足に小指を打った。
「痛いっ!?」
「……ユナおねえちゃんいきなりどうしたの?」
マーシャちゃんが私を心配そうな目で見て……見て……マーシャちゃん……そんな痛い子を見るような目で私を見ないで……?
……クッソ恥ずかしい……ちくせう。
◇
お互いの自己紹介も済んだところで、そろそろ本題に入るとしよう。
「マーシャちゃんはなんで私の家の前に倒れてたの?」
そう、それが問題なのだ。私はマーシャちゃんを見つめる。
「うん……。えっと、さいしょからはなすね……?」
◇
そこから、マーシャちゃんの説明は1時間ぐらい続いた。
長かったので要約すると、
・マーシャちゃんは近く?の村の子
・マーシャちゃんのお母さんが病気になった
・数日経っても治る様子はなく、見ていて辛そう
・村には薬も医者もいない。街の医者を呼ぶには往復1週間はかかる上莫大なお金が必要
・薬草を取ってこようとマーシャちゃん一人森へ
・そのまま迷って私の家の前に行き着いた時点で力尽きる。
こんな感じだ。ちなみに「サーチ」をかけた結果、ここから20キロぐらい離れたところに村を見つけた。
……森の中を20キロも歩いてくるとかマーシャちゃんすごいすぎない?
それでも、大人に何も言わないまま一人で森へ入った挙句遭難したのは頂けない。
「もし私の家がここになかったらいずれ死んでいただろうし、ここに住んでいたのが悪い大人だったら死ぬよりも酷い目に合わされてたかもよ!?」ということをお説教した。
マーシャちゃんも自覚はあったようで、甘んじて怒られていたように感じる。
まぁお母さんを助けたかったからだし、結果的に私に出会えたのだから今回は多めに見てあげよう。
ふと壁に掛けてある時計を見ると、時刻は20時をすぎていた。
ちなみにこれも創造魔法で作ったものだ。異世界でも一日は24時間らしい。1年が何日かは分からないけど。
「マーシャちゃん、今日はもう暗いから村に帰るのは明日にしようか。」
日が暮れてもマーシャちゃんが戻ってこないことは知っても、夜の間にそれ以上動くことは無いはずだ。
それに夜の森はすごく危険だ。見通しが利かない上に夜行動物などの危険もある。
この森にはいかにも異世界的なゴブリンみたいな魔物はいなかったけど、魔法の実験をしている時に「熊……?」とか「鹿……?」とか「兎……?」とかを見た。「……?」なのは、どれも額に宝石のようなものが埋まったいた。多分魔物なのだろう。
それに狼とかもいるだろうから尚更危険だ。だから、明日の日が昇るぐらいに帰ろうかと提案したのである。
それに対するマーシャちゃんの反応は「うん……」であった。それは嬉しいけどお母さんの身を案じているのか、少し迷いがあったと言う風な返事であった。
私は「大丈夫だよ」と優しくほほえんだ後、ご飯をまだ食べてなかったことに気がつく。
「遅くなっちゃったけど、夜ご飯にしようか」
「ご飯!!?」
マーシャちゃんは先程とは打って変わってキラキラした目でこっちを見つめてくる。
……さっきのクッキーの時も思ったけど、この子食いしんぼかっ!
そう心の中で思いながら、私は夜ご飯の支度に取り掛かるのだった。
主人公ちゃんの名前が決定しました。
沢山のアイディアありがとうございました。
「Una Nancy Owen」は諷 様から頂いたアイディアを元に決めました。
あと某弾幕ゲームとは多分関係ないです。
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