いよいよ
暗い闇の中で彼はいた。鳥達のさえずりだけの世界で、李殺道を名乗る青年は瞑想していた。
一人きりの世界で、彼は自分を追う者達の気配を感じ取っていた。その中には、彼女もいる。
「……終わらせる。俺が……全てを……」
静かに決意を新たにし、彼はバタフライソードの手入れを始める。決戦の時に備えて……。
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「今日はここら辺を見回りですね」
五奇が口を開くと、横にいた等依が頷いた。
「そうっスね~。ここからだと、黒樹神社とか黒樹市長邸とかあるっスね~」
すっかりいつもの等依に戻ったことに安堵しながら、五奇が頷き返す。
「そういえば……市長邸もだけど、神社にも行ったことあんまりないですね……。黒樹神社って有名で大きいけど、家族と住んでた家からは距離があったから……」
「そーなんか。ウチはまぁ、比較的関わりあったっスからねぇ。姉さんと両我とかとよく借りだされたもんスわ~」
等依の言葉で、五奇はずっと気になっていたことを聞くか悩み……やめた。
(人様の家のことを聞くなんて野暮だもんな……。空飛君じゃあるまいし……)
しかし、その思考は等依にバレていたらしい。彼はにこやかに五奇に向かって声をかける。
「ウチのきょーだいのことっしょ? まぁ、普通に考えたらありえねーんすけど、十人は超えてるっスね」
予想以上の人数に、五奇が思わず大声を上げた。
「空飛ちゃんはリアクション薄かったっスね~。訊いてきたわりに『あ、昔みたいでいいでございますね』とか言ってたわ~」
(訊いたのかよ空飛君! そしてリアクション!)
「ん? 五奇ちゃん……なんかさ、おかしーかも」
「そりゃ、兄弟が十人以上はおかしいですよ!」
五奇が答えれば、等依が苦い顔をしながら、続ける。
「違うっつーの。いや、確かにおかしいんだけど。神社! なんか、気配がおかしいっス!」
等依に指摘されて、五奇もようやく気が付いた。神社から異様な気配が……いや、違う。あの日、藤波一族の里で感じ取った気配が漂っていたのだ。
「等依先輩!」
「五奇ちゃん、連絡するっスね! そいでオレちゃん達は……」
一呼吸置いて、五奇が静かに告げる。
「他の二人と、教官達と合流しましょう!」
二人は行動指針を決めると動き出した。
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数分で包囲網が組まれた。Aチーム、Cチームこと緋雲、そしてEチームが神社に突入。BチームとDチームは市長邸の警備に回ることになった。
「いいか貴様ら! 気を抜くな! 今回は九十四期総力戦だ! 指揮は私がとる!」
齋藤の有無を言わせぬ迫力に圧されたのと、あの時のリベンジに燃えるメンバー達は誰も反論しなかった。
「よし! 神社内部に、突撃!」
黒樹市の地図作成者:錆らむね様(@ramunesabi)




