動き出す
「……それで姉さん。私に何を伝えたいんだ……?」
いつもとは違う、素の口調で尋ねる等依に琴依が朗らかに答える。
「あんねー? めっちゃいい案浮かんだんよ~! 等依ちゃんの式神、火雀応鬼たんと氷鶫轟鬼たんをさ……」
そこまで区切ると、琴依は等依に耳打ちをする。それを聞き終える頃には、等依は驚きで固まっていた。
「そんな……ことが……? でも、それでも退魔術式が使えないことに変わりは……」
「等依ちゃーん? 忘れてるっしょ。大事なことー」
琴依に指摘され、等依が首を傾げれば彼女は優しい笑みで一言告げた。
「ワタシちゃん達の生き方は~自分達で切り開く! ってあの時に指切りげんまんしたでしょーが~。だから、ね? ワタシちゃん達なら……いや、姉弟だけじゃなくって、仲間達もいれば……それで御の字じゃね?」
等依の目に光が宿る。
「……そうっスね……。確かにそうだ。私は……オレちゃんてば大事なこと忘れてたっスよ……。うんと、その……ありがとう姉さん」
ようやく素直になった等依に、琴依が優しくハグをする。その温もりが嬉しかった。
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同刻、某所にて。
「李殺道と藤波家の行方は未だつかめず……か。困ったものだ」
「どうなさいますか、市長」
秘書、百合芽に問われた黒樹市現市長、彪ヶ崎信護は市長机に腰掛けながら答える。
「こちらの手札であるトクタイにひとまずは任せようじゃないか。なぁに、今年は鬼憑きに蒼主院と豊作なんだ。上手くいくさ」
微笑むと信護は静かに百合芽が入れたお茶をすする。
「うむ、やはり美味しいな。君が入れた茶は」
「もったいないお言葉です。では、予定通りに。……いいですね?」
突然話を振られて、彼はいつも周囲に見せる柔和な笑みも優しい声色もなく、ただ冷たく言い放った。
「……借りは必ず返しますよ。市長。蒼主院家の使いとしても……トクタイの人間としても、ね?」
それだけ言い残すと、ルッツは部屋を後にした。その背中を見送ると、百合芽が静かに口を開く。
「……あの男、好きにさせてよろしいのですか?」
信護はそんな百合芽に微笑みで返すと、お茶を再度すするのだった。
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トクタイ、演習場にて。
「貴様ら! そろそろ時間だ!」
Eチームと緋雲、計八人が齋藤の声で一斉に動きを止めた。そして一通り見渡すと、齋藤が満足げな声を上げる。
「うむ! 得る物は互いにあったようだな? では! 解散し、休め! 良いな!」
五奇は麗奈のそばにより、彼女に礼を伝える。
「その……ありがとうございました」
「いえいえ。素敵な殿方にならいくらでも! わたくし、こう見えて尽くすタイプでしてよ? その……」
麗奈が続けようとした時だった。五奇の背後から、怒気を含んだ声がする。
「五奇! なに女口説いてんだ! んな暇あるわけねーだろうが!」
鬼神の思ったより近くからの声に、五奇は苦笑しながら振り向く。
「あ、鬼神さん。その、口説いてるとかじゃないからさ……」
「あら? わたくしはそのつもりでしたけれど?」
あっさりと告げる麗奈に、五奇が目を見開いてなにかを口にしようとした瞬間には、鬼神に襟首をつかまれ引きづられていた。
「ちょ! 鬼神さん、苦し! 歩きづら!?」
そんな二人の様子を見て、麗奈がボソリと呟いた。
「ぐぬぅ……恋敵現る。ですわね……!」




