模擬戦闘その二と過去
雅姫とペアになった鬼神は、彼女を睨みつけたまま動こうとはしなかった。だが、雅姫の方は全く気にしていないらしく声をかけた。
「鬼神の者。貴女との技術のやりとり願う」
「……技術ってなんのだよ? 俺様は百戦獄鬼しかいねぇーんだぞ!! 技術もへったくれもあるか!!」
大声を上げる鬼神に対し、雅姫は首を横に振り答えた。
「否。我思う……我が家に伝わりし秘術の応用、貴方なら可能と判断。いかがか?」
彼女の提案に、思わず鬼神は目を丸くする。そんなことなどかまわず、雅姫は続けた。
「我が一族は代々武家であり、退魔の者。故に……鬼とも幾度と争った。そこから得た秘術、扱える者我が血族におらず。故に、鬼憑きならば可能ではないか? と思い至った次第」
一通り彼女の話を聞いた鬼神は、口角を少し上げて……返事をした。
「なるほど? ようするに、いらねぇもんやるってか? ……いいぜ、もらってやるよ……ただし、てめぇの戦闘技術も盗ませてもらうぞ! こうなったらよぉ!!」
「承知。薙刀・涙、抜刀!」
武器を抜いた雅姫に対し、鬼神はファインディングポーズを取ると、二人は動き出した。
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「にゃー。みぃ~んなやってるねーん? ねぇ等依ちゃん?」
琴依が等依に声をかけると、彼は肩をピクリと揺らしながら虚ろな瞳で実姉を見つめる。
「……等依ちゃんさー。大兄様に言われたことおっぼえてる~?」
琴依が尋ねれば、等依は頷いた。それは、等依の体質が退魔術式に上手く接続できないことがわかり、逆に琴依に本来蒼主院の女性にはないはずの高い祓力と退魔師としての才覚があると発覚した時のことだ。
二人はただでさえ天大路家の血筋な上、さらに言えばかつては忌子であった双子でもある。処遇をどうするか? 先代当主を筆頭に頭を悩ませていた時、進言したのが当時の次期当主に内定していたルッツこと輝理だった。
『僕に提案があります。等依君は式神使いとしての才覚とてつもないもの。そちらを伸ばせば良い式神使いとなりましょう。琴依君に関しては、僕の元で修行をさせましょう。この才覚ももったいない。それになりより、今時……若い才能を潰すのは、古いでしょ?』
男尊女卑も根強い家系の中で、歴代でもっとも天才と呼ばれた男からそう言われてしまえば、誰も反論ができなかった。こうして、等依は式神使いとして極めることになり、琴依は男系しか鬼と契約をできないしきたり故に、輝理が用意した人造式神である人形、剛徹武流丸を与えられ遅咲きながら退魔師となるべく修行することになったのだ。
その過去を思い出して、尚更等依が暗い顔をする。そんな彼に琴依が告げる。
「ねぇ等依ちゃん? ワタシちゃんさー気づいちゃったんだよねぇ……。武流丸使ってて思ったんよ! これ、等依ちゃんが習得したらヤバくね!? って技をさ!」
どこまでも明るく弟と向き合う姉の姿が、まぶしかった。




