不信感
「空飛君、帰って来るの遅いですね……」
空飛がサーシャの元へ向かってから数時間。五奇達はトクタイ本部、Eチームの待機室にいた。
「……そうっスね……」
いつもより口数の少ない等依の代わりに、鬼神が口を開く。
「色々あるんじゃねーの? 半身っつーことは、まぁ身内みてぇなもんだからな。積もる話もあんじゃね? まぁ急を要する話っつーのは引っかかるが……」
それ以降、会話は続かなかった。なんとも言えない沈黙が三人を支配する。
(き、気まずいな……。ていうか、鬼神さんはともかく……等依先輩、最近様子がおかしい、よな?)
等依の方を盗み見れば、彼は省エネモードの火雀応鬼と氷鶫轟鬼を交互に撫でていた。その表情からは何も読み取ることは出来ない。
静かな室内に、しばらくして齋藤とともに空飛が入って来た。真剣な眼差しで、椅子に座っていた三人の方を見ると彼は口を開いた。
「サーシャから聞いた話をお聞きいただきたく存じます。はい」
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一通り空飛の話を聞いて、五奇が声を上げる。
「あの……この情報は、トクタイとしては?」
「良い質問だ五十土五奇よ。全ての部隊及び隊員に伝達されている。そして、上層部会議の結果、我々EチームはAチーム、Cチームと分担して藤波家を徹底的に追うことになった」
そこまで聞いて、鬼神が今度は齋藤に訊く番だった。彼女は不機嫌そうな顔で尋ねる。
「李殺道はどーすんだよ? 最初はアイツを探すのが目的だっただろうが」
吐き捨てるように彼女が言っても、齋藤はいつもと変わらない態度で答える。
「それも引き続き調査を行う。少し目的は変わったが、な」
含んだ言い方をする齋藤に、空飛が手を上げ質問する。
「あの、それはどういう意味でございましょうか? はっ! というか、そういえば痕跡とは言われましたがその肝心の目的が不明でございました!?」
彼の言葉に他の三人もハッとした顔をする。確かに、痕跡を探す理由を……目的を理解していなかったからだ。
全員の視線が齋藤に集まれば、彼女はあっけらかんとした態度で告げる。
「目的を告げなかったのはわざとだ。信頼していなかったのではないぞ? ただ……上との兼ね合いが……な。とにかく、今回からは藤波家の行方の捜索と李殺道の……保護が目的となる! 以上!」
力強く五奇達に向かってそう告げると、齋藤は部屋を後にしようとする。それを止めたのは……等依だった。
「教官。……上って、どこまでのことっスかね?」
訝しげに訊く等依に齋藤が苦い顔で言い切った。
「今の貴様らでは辿り着けん。それに……知らない方が良いこともあるだろう」
どこまでも含んだ言い方をする齋藤に対し……五奇達が不信感を抱くのも仕方のないことだった。




