目星
「それで? 急を要する話というのはなんでございましょうか?」
空飛がサーシャに尋ねれば、彼女は不敵な笑みを浮かべてゆっくりと口を開いた。
「君達、あの藤波家とかいう連中のところに行ったんだろう? それについてさ……ちょっと思い出したことがあってね?」
含んだ言い方をするサーシャに、空飛が小首を傾げながら訊く。
「ん? 何故そのことをご存じなのでございましょう?」
「……訊くのはそこなのかい? まぁいいけどさぁ。元々、僕がいた孤児院が藤波家が経営していたところらしくてね? それでここの連中に色々聞かれたから、わかったって感じかな? で、さ。ねぇ僕? その孤児院に……僕達ほどじゃないけど高位の半妖の気配があったって言ったら、どうする?」
サーシャの言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。空飛は脳内で彼女の言葉を復唱し……驚きの声をあげた。
「そ、れはもしや……一すずめとか言う妖魔の事でございましょうか!?」
食い気味に訊けば、サーシャは困惑気味に首を横に振った。
「あ、いや? そのすずめとかいうのは知らないな。僕が知っているのは……牙王・售月とか名乗ってるヤツの事だよ?」
牙王・售月。聞き覚えの無い人物の登場に、空飛は思わず言葉を失う。
「それは……つまり。藤波一族には一すずめだけではなく、別の……その、半妖も絡んでいるということでございましょうか?」
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黒樹市内、某所にて。
「して? 壱右衛門よ、媒体者共がかの者達の手に渡ってしまったぞい? どうするつもりでな?」
派手な装飾の着物に、こげ茶色の足元まで伸びた長髪を使役している低級妖魔達に整えさせながら、その人物……牙王・售月が翁、壱右衛門に尋ねれば彼は静かに茶を飲みながら答えた。
「責めるか、半妖售月よ。たったの四体、失ったところでどうということもあるまいよ。数ならまだある」
「たったのだと……? この售月が選りすぐった四匹であったのだぞ?」
鋭い目つきで睨みつける售月に対し、壱右衛門は特に気にする風でもなくあっさりと告げた。
「くどい。そんなに惜しいのであれば……自力で取り戻して来たらどうだ?」
そう言われてしまえば、售月は押し黙るしかない。確かにその通りだからだ。
「……ふん」
售月は不貞腐れたのか、視線を壱右衛門から外し、近くにおいてあるタブレットに触れた。
「まぁ良いわ。素体の目星はついておるのだ。早う手に入れたいものよ……くくく」
邪気しかない笑みを浮かべると、リストを眺める。次の媒体者候補である……李殺道のリストを。




