鬼神
その頃。
由毬と対峙していた鬼神と柩もまた、苦戦していた。由毬の鬼、音操癒々鬼の範囲技が強すぎるのだ。衝撃波の波状攻撃で、一歩も近づけない。
「乙女、柩。そんな調子では、語れないわよぉ? 鬼神家の真実を、ねぇ?」
由毬が煙管を口に含みなおし、ゆったりとした動作で癒々鬼に指示を出す。容赦のない彼女に、鬼神が思わず舌打ちをする。
「ちっ! これじゃいつまで経っても、近寄るどころじゃないぜ!」
「……そうね。本来、癒々鬼は戦闘型じゃないはずなのに、それでこの強さなんて……」
百戦獄鬼と無偶羅将鬼も、二人の精神に影響されて動きを止めている。そんな様子を見かねてか、由毬が口を開いた。
「あのねぇ……。協力するにしろ、やり方ってものがあるのではなくてぇ? あなた達の鬼はどちらもパワータイプ。だけれど、属性的には真逆。ようするに、相性の問題もあるのよぉ?」
諭すような口ぶりに、鬼神が苛立ちげに声を荒げて叫ぶ。
「んだよ!! だったらなんだってんだ! つーか、そんなに言うならちったぁ手加減しやがれ!!」
「……ねぇ由毬様? ワタシ達を試すこと、それは力を持ってということだけなの? それとも……別に意図があるのかしら?」
柩の鋭い指摘に、由毬が煙管をくるくると回しながら微笑んだ。
「さすがは柩ねぇ、乙女に見習わせたいわぁ。ふぅ……まぁもういいでしょう。力及ばないあなた達に話しても……と思ったのだけれど、どこぞのお節介が語るよりはマシかしらねぇ?」
気が変わったと彼女は告げ、鬼を引っ込めた。そしてゆっくりと静かに、話し出した。
「二人とも覚悟なさいなぁ? これから話すことは過酷よぉ? ……まずは……鬼神一族とは蒼主院に人為的に創り出された存在ってことからかしらねぇ」
その言葉に、鬼神と柩は嫌な予感が当たったという顔をした。そう、虎雷雅達との会話の中でなんとなくだが感じていたのだ。自分達は創られた存在の末裔なのではないかということに。
「二人とも、ここまではいいみたいねぇ? じゃあ次よぉ? 鬼神家……もといこの字は元々鬼神と読ませるのが一般的なのだけれどぉ。元々はその自然物の精霊のような超常的存在、おんぬ……派生して鬼を代々祀っていた巫女の一族だったそうよぉ? それに目をつけた蒼主院の何代目かが、強引な手段で家ごと買い取って、鬼を精神と結びつけて身体に憑依させ……鬼憑きを創ったのだそうよぉ。ただ……」
そこで一端言葉を区切ると、由毬は神妙な顔で続けた。
「ただ、その副作用? で、代々女系になってしまい……女しか生まれなくなってしまったそうなのよぉ。依り代的な意味合いも強そうなのだけれどそこは解明中みたいねぇ」
大人しく聞いていた鬼神が口を開く。その顔色は真っ青だ。
「……つまり、あれか? 蒼主院に造られた俺様達一族をマネして……あの藤波家の連中は……虎野郎達になんかしてたってことかよ!?」
「……そういう、ことになるわねぇ」
あっさりと告げられた事実に、鬼神と柩は沈んだ表情を浮かべるのだった。




