師弟と
「金の術式! 壱銘、斬葬!!」
輪音を構え、技を放つ五奇に対し師である男はゆっくりとした動作で左腕を前に出した。
「土の術式、壱銘……華盾」
彼の周囲に花びらが舞い、五奇の攻撃はあっさりと防がれてしまう。
「……俺の知らない技、ですね」
五奇が睨みながら訊けば、男は静かに告げた。
「君が望む力ではなかったからね。それで? 五奇君。これで終わりじゃないだろう?」
「くっ! 当然! 弐銘、覇斬牙!」
五奇が次に繰り出したのは、飛ぶ斬撃である覇斬牙だ。男めがけて一直線に向かって行く。だが……。
「金の術式、伍銘、封魔刃」
懐からナイフを取り出した男は、技を繰りだし五奇の術自体を封じた。輪音の刃から色が失われ、代わりに鎖の模様が現れた。
「なっ!?」
「教えたはずだよ? この術は、あらゆるモノを封じる技だ、とね。祓力が高ければ高いほど効果も上がるし……こういう使い方もできるんだ。覚えておくといい」
一端言葉を区切ると、両サイドに控えていた鬼達に指示を出す。
「金龍、銀虎。頼んだよ」
二体の鬼達は静かに頷くと、五奇に向かって行く。五奇は参弥を構え、迎撃体勢に入った。まず、金色の金龍が拳を振り上げる。それを五奇はギリギリでかわす。
「くらえ!」
祓力を乗せて勢いよくワイヤーブレードを金龍に向かって射出する。それを銀虎が割って入り、防御結界を張って防いだ。
「くっ!」
(実力差がありすぎる……! こんなに、強かったのかよ! この人は!!)
圧倒的な実力差を体感した五奇だったが、それでも意地を張る自分がいることに気づいて思わず苦笑する。
「五奇君?」
男が不思議そうに声をかければ、五奇の口から本音がこぼれた。
「ははっ……こんなの勝てるわけないじゃないかよ……。こんな! こんな実力差なんてさ……。なぁ、先生……教えてくれよ……強さって……力ってなんだよ……? なぁ!!」
八つ当たりにもほどがある言葉を、だけれど師匠は優しく受け入れようだった。彼は口をゆっくりと開く。
「そうだね……僕も思うよ。力とは……強さとはなんだろうってね? ……五奇君」
「……なんですか……」
静かに答える五奇に対し、師匠、蒼主院輝理でありルッツを名乗って来た男が諭すように答える。
「強さというものは、きっと自分自身で決めることなんじゃないかな。なにを、どのように強いと感じるのか、てね。そして力というものは、それに応じたもののことなのだと僕は思うよ。だから……五奇君。君はどうなりたい? いや、どういう自分でありたいかい?」
その問いに、五奇は即答できなかった。どういう自分でありたいか? その言葉が脳内をループする。
(どうありたい? 俺は……俺が?)
ふと。在りし日の父の姿が脳裏をよぎった。警察官だった父。人を助け、人を守る。その姿が頼もしくて誇らしくて……。
「なりたかった……。俺も父さんみたいな、人間に……」
絞り出せた言葉はそれだけだった。




