あの時
(あぁ……。思い、出した。俺は……あの時……)
蘇ったのは三年前、ルッツを師として退魔師を目指すことにした時のこと。
あの時、五奇は父の精神を破壊し奪った妖魔へ対抗できる力を手に入れたと思った。すぐにでも復讐できるほどの力を。
だが、それを止めたのもルッツだった。彼は諭すように語りかけたのだ。
『五奇君? それではダメだ。ダメなんだよ。力の使い方を、想いのぶつけ方を間違えてはいけない。それは君もわかっているんだろう?』
──想いのぶつけ方? 俺は、復讐したいんだ。先生だって、言ったじゃないか。仇を取りたくないのかって!!
『言ったよ。でもね? それは復讐に囚われろということではないんだ』
──じゃあ、なんだっていうんだよ?
『それは、君が自然と理解するもの、いや、君が君自身で得るものだよ。だけれど……そうだな。今の君は少しばかり見ていられない。だから……少しだけ。少しだけ、思考をズラそうか』
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「……っ!」
あの時のやり取りを思い出した五奇は、ゆっくりとルッツの胸ぐらから手を離した。
「……五奇君」
「……るせぇ、よ……。俺は……俺は!! 憎いアイツを! 赦せないんだ! だから!」
「その想いをぶつけたい? だけれど、それは相手の思うツボだよ?」
穏やか、だが冷静なルッツの言葉に五奇は思わず叫ぶ。
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!? 止められないんだ! この……憎しみが!!」
自分の胸を押さえながら訴える五奇に、ルッツが静かに告げた。
「……じゃあこうしようか。君に更なる力を与えよう。……僕に勝てたのなら!」
ルッツの言葉に五奇が思わず彼を見やれば、ルッツは静かに五奇から距離を取っていた。
「……先生?」
「五奇君。本気で来なさい」
そう告げるとルッツはいつかの等依のように両手を広げ、二体の鬼を呼び出した。それぞれ、金色と銀色の鎧を纏ったその姿を見て、五奇は驚きの声を上げる。
「なっ!? 火雀と氷鶫達みたいな……!?」
「金龍応鬼と銀虎轟鬼という。僕が使役する鬼達さ」
あっさりと答えるルッツに五奇は困惑を隠せない。しばらくの沈黙の後、五奇が口を開いた。
「……先生。あなたは一体……なんなんだ?」
「……今はあえてこう名乗ろうか。僕は蒼主院輝理。当主の座を降り、君の師となった男さ」
男は本来の名を告げると、五奇に向かって声をかける。
「さぁ来なさい。そして、示しておくれ。君が得た力を!!」
どこまでもまっすぐな視線に、五奇も答えるべく身体を完全に起こし武器を構えた。身体はまだ少し重い。
「……先生。俺は……俺の憎悪を貫く!!」
濁った瞳で、五奇は男に向かって行った。




