真実を知りたいのなら
「おい、もういいだろうが姉貴! さっさと話せや!」
しばらく進んだ先は、里の入り口。先刻まで戦っていた場所に戻って来た形だ。鬼神の言葉にも由毬はいつもの調子で語り出す。
「そうねぇ。ここら辺なら……大丈夫でしょう。乙女、柩。あなた達に真実を知る覚悟があるか……計らせてもらうわねぇ? 音操癒々鬼」
由毬が自身の鬼を呼び出した。半透明の青い鬼が、ゆっくりとした動きで由毬の前に出る。
「なっ! やる気なのかよ、姉貴!?」
困惑する鬼神に対し、柩が口を開いた。
「冷静になりなさい、乙女。由毬姉様がこう言うということは、それだけ事が重大ってことよ。それこそ、ワタシ達の今後に関わりそうな……」
「……柩。てめぇまで、やる気なのかよ……。ちっ! わかったってんだ! やってやらぁ!!」
覚悟を決めたらしい鬼神が百戦獄鬼を呼び出す。それを確認すると柩も無偶羅将鬼を呼び出した。二人の様子に由毬は満足げに息を漏らし、ゆったりとした口調で宣言した。
「真実を知りたいのなら……来なさいなぁ」
****
「う、ううん?」
五奇が目を覚ますと、そこは深い森の中だった。木々の隙間から漏れ出る日光が眩しい。ゆっくりと身体を起こせば、全身に痛みが走る。その様子を見守っていたのだろう。近くの木にもたれかかっていた……ルッツと目が合った。
「やぁ」
短く声をかける彼に対し、言いたいこと、訊きたいことが山ほどある。だが、口を動かすことすらままならない。そんな五奇に向かって、ルッツはゆっくりと近づくと口を開いた。
「封呪文解放。木の術式、参銘、蒼の輝き」
右手をかざし、癒しの技を五奇にかける。木の属性の術は、回復術が主なのだ。少しづつだが、確実に五奇の身体が軽くなっていく。
しばらくして、動けるようになった五奇に対し、ルッツがいつになく神妙な声色で話しかけた。
「五奇君。……あの妖魔に何を言われたんだい?」
五奇の肩がピクリと揺れる。その目は、ルッツに対する不信と怒りで満ちていた。
「アンタ、俺に……俺に何かしたのかよ! 気持ちを! 怒りを! なぁ! なんとか言えよ!!」
一度口にしてしまえば、思っていたよりも簡単に言葉が溢れて来る。止まらない五奇の言葉の全てを受け入れるように聞くルッツ。その姿こそ、答えかのようで。気づけば、五奇の心の中はあの妖魔への憎悪と何も言ってくれないルッツへの怒りで染まっていた。
「……五奇君」
ようやく口を開いたルッツが口にしたのは……。
「すまない」
一言の謝罪だった。それを聞いた途端、五奇がルッツの胸ぐらをつかむ。
「いじったのか……。俺の心を!」
「……正確に言うなら、ほんの少し誘導した……かな。君が、憎しみで壊れてしまわないように、ね」
穏やかな口調、仕草が五奇の怒りを増幅させる。だが、次の言葉は予想外の言葉だった。
「……君も望んでいたからね。憎しみに……いや、違うかな。恐れていたからね。……憎しみで壊れてしまいそうな自分自身を」
その声を聞いた途端、五奇の手から力が……抜けた。




