勝ったのは?
「火の術式! 伍銘! 舞砲烈火!」
灰児の炎を纏わせた斬撃が巨大鬼に当たる。だが、ダメージが入った様子はない。
「うむ! なかなか手強いな! む? Cチームの者達も来たか! 心強い!!」
「失礼でしてよ、愛原灰児さん? わたくし達は緋雲です! そんな芋臭い呼称はやめて下さいません?」
麗奈が鉄扇を構えながら指摘しているのを、美珠と雅姫がめんどくさそうな顔で見つめていた。一方で、琴依はマイペースにあくびをしながら剛徹武流丸の肩に乗っていた。
鬼神と柩も各々呼び出した百戦獄鬼と無偶羅将鬼で巨大鬼に攻撃を仕掛けていた。灰児、緋雲の四人が左後方からで、鬼神と柩と黒曜が右側から攻めている形だ。
佐乃助はと言うと、巨大鬼の中心部で倒れこんでいる虎雷雅達の間に陣取って悠々と立っていた。
「さて……。あちらはどうやら撤退したようですね? まぁ構いませんが……所詮は妖魔……使い捨てる程度のものですしね」
一人呟きながら、監視用の式神ですずめ達が撤退したのを確認した佐乃助は、連絡用の式神から届いた指示に従う。
「……了解しました、お爺様。こちらも撤退しましょう……媒体者達も……回収します」
佐乃助が撤退することに最初に気づいたのは、黒曜だった。黒い蔦を巨大鬼の合間をぬって放ち、佐乃助を拘束しようとする。だが、それは佐乃助が繰り出した技によって防がれた。
「くっ。蔦程度では弾かれるか! 鬼憑きの二人よ、急げ!」
「わかっとるわ! 俺様達を舐めんじゃねぇ黒曜!」
「……藤波家の人。ワタシ達、鬼憑きとその子達との関係……教えてもらうわ」
鬼神と柩の言葉を背にし、百戦獄鬼と無偶羅将鬼が同時に佐乃助めがけて拳を振り下ろした。だが……。
「ふむ。片方はともかく、もう片方は未熟ですね? こちらとしては少し失望です」
二体の鬼の拳を障壁を展開して防ぐと、佐乃助は一礼する。
「……この里での実験も佳境でしたし……時間切れです。それでは蒼主院の皆様、またお会いしましょう」
佐乃助の周囲が黒い霧に包まれ、突風が吹き出した。その勢いはすさまじく、気を抜くと吹き飛ばされそうだった。
「させはしない! 火の術式! 参銘! 爆炎列弾!」
連続して炎の弾を後方に放つと、その勢いで灰児は佐乃助に急接近して一撃蹴りを入れた。
「ぐっ!?」
佐乃助が初めて声を上げた。その流れに乗るように、緋雲の四人が倒れている虎雷雅達に接近し、保護した。それを見た佐乃助は、少しだけ苦み虫を潰したような顔をすると、消えて行く巨大鬼を突き破って空中に浮きながら里の奥へと下がって行く。
「待ちやがれ、イカレ野郎!!」
鬼神の叫びも虚しく、佐乃助の姿が今度こそ霧となって、姿を──消した。




