対峙する者達
「ど、どうするんだよ虎雷雅! ぼく、こんなの聞いてないよ!」
翡翠色の髪の少年、凰駿が叫ぶ。その声色は不安げだ。隣にいた龍の青年、阿龍が彼の肩を優しく抱いた瞬間だった。
彼らの身体に異変が起こる。
「な、なんだ!? うぐっ! 身体から! 引き離される!? まさか……騙したのか! 藤波ぃ!!」
虎雷雅の叫びと共に、弥隼も凰駿も阿龍もその場に崩れ落ち、身体を痙攣させる。その姿は痛々しく、駆けつけた灰児と柩、緋雲の四人、そして鬼神も言葉を失う中で黒曜だけが冷静に状況を分析していた。
(ふむ? 妖魔の気配が濃くなった……。そうか! 強制的に妖魔へと転じさせられようとしているのか!)
「……全く。真に、人間の業とは深いものよ……! 儂が愛した人間のためにも、赦すわけにはいかぬ!」
「……そうですか。では、赦されなくてかまいません」
黒曜の声に反応するように、苦しむ虎雷雅の横に現れたのは藤色の髪をオールバックにした青年が現れた。
「はじめまして、蒼主院の方々? 我が名は藤波佐乃助、覚えなくていいです」
虚ろな目をした佐乃助に、その場の全員が緊張感に包まれる。
「こいつらで何をする気だ!? いや、そもそも鬼憑きとの関係はなんなんだよ!? 答えろや!」
鬼神の叫びにも、佐乃助は動じない。そうしている間にも、虎雷雅達の様子が更に悪化して行くのが見えた。
「うむ。なにが起ころうとしているのか、まるでわからないな! とにかく、斬り伏せるのみ!」
灰児が目にも留まらぬ速さで佐乃助に向かって行くが、斬撃をギリギリでかわされる。だが、灰児は臆することなく、技を放った。
「火の退魔術式! 弐銘、紅蓮剛弾!」
妖魔剣ゼルギウスの刃先から炎が放出され、弾となって放たれた。
「藤波流……雷光の舞」
灰児が放った弾を、佐乃助が自身の周りに出現させた雷で相殺させ、灰児と距離を取る。
「では、そろそろ儀式を終わらせていただきましょうか。妖魔達よ、踊りなさい」
虎雷雅、弥隼、凰駿、阿龍が同時に苦しげな声で叫んだと同時に、彼らが呼び出していた妖魔達の姿が更に変異していく。
「なっんだと!?」
「……嘘」
鬼神と柩が同時に声を上げた。なぜなら、融合した妖魔達の姿が巨人から……巨大な身体に二本の角を生やした……鬼の姿に変わったからだ。大きな口元からは鋭い犬歯がのぞく。
「ふむ。虎と龍と隼と鳳凰……バランスが悪かったわりにはしっかりした鬼になったじゃありませんか。これはお爺様も喜ぶことでしょう……。全ては……我が一族の悲願のために、消えて頂きましょう。蒼主院の方々」
佐乃助の声色に少しだけ感情が乗った。虎雷雅達は意識を失ったらしくピクリとも動かなくなった。
「呆気にとられている場合ではないな! 皆、行くぞ!!」
灰児の声で柩と鬼神、そして緋雲の四人も行動に移る。まず動いたのは緋雲だった。
「わたくし達も行きましてよ! 美珠、雅姫、琴依! 準備はよろしくて!?」
縦ロールの女性が、緋雲の他の三人に声をかけた。彼女の声は──自信に満ち溢れていた。




