宿命の
「お、前は!」
五奇の声色が変わる。いつもの大らかさは影を潜め、低く憎しみを込めた声に、等依が横で真剣な顔つきになる。
「……五奇ちゃん、無謀なことだけはするなよ?」
「……はい」
二人の会話にすずめが愉しげに弾んだ声で両手を丸めて口元に当て、わざとらしい口調で言葉を発した。
「あっれ~? 愚策したワリには冷静じゃ~ん? ま、いいけど~♪」
一端言葉を区切ると、すずめは腰に両手を回す。
「で・も~? 五奇くんは好みだけど、そっちは好みじゃないんだよね……。スカーレット!」
五奇達が来た道とは反対側の牢に近い方の道から、赤い長髪をポニーテールにした黒いミニスカートのメイド服を着た若い女が現れた。
「ハイ、ゴ主人様御用デスカ?」
生気を感じられない声色が不気味さを助長させる。すずめと女、スカーレットの異常なまでの殺気を肌で感じながら、五奇と等依は頷き合いそれぞれの相手と向かい合う。
「……妖魔。俺の仇……お前だけは! 赦さない!」
五奇の怒りを込めた声に、すずめが嬉しそうに声をあげる。
「いいねぇ~♪ その目、ゾクゾクするよ……。ボクはね? かわいいものが好きなんだ~♪ 男も女も・ね?」
恍惚とした表情を浮かべるすずめに対し、五奇は侮蔑の目を向ける。
「……お前の話なんてどうでもいい……」
参弥と輪音を構える五奇に対し、すずめは振り子を懐から取り出した。
「ふふふ……あはははは! いいよ~遊んであ・げ・る♪ あ。スカーレット、そっちは殺していいよ」
冷めた声ですずめがスカーレットに声をかける。彼女は両手をかざし、等依と向き合った。
「了解デス。ゴ主人様」
「殺る気満々っスかー……。オレちゃん、そんなーに強くないんスけどね?」
等依は火雀応鬼を前に出し、傍らに氷鶫轟鬼を配置し簡易式神を宿した紙札を右手に構える。彼なりの戦闘体勢だ。
スカーレットは表情を変えるこなく、一言呟いた。
「奪イマス」
どこまでも無機質な声色のスカーレットに、すずめが愉しげな笑い声をあげた。その声だけが地下牢に響き渡っていた。
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その頃。
里の入り口で戦闘を繰り広げる鬼神と黒曜は、虎雷雅達が呼び出した"妖魔"に囲まれていた。
「ふむ。やはり似ているな? 鬼憑きと仕組みが」
黒曜の言葉に、鬼神が顔を引きつらせる。
「……てめぇら、マジでなんだよ!? 答えろや!!」
「……答える義理はない。我々の願いのためにも、ここで死んでもらう!!」
虎雷雅の咆哮が響き渡ると同時に、三人が被っていたフードを外した。その姿を見て、鬼神が声をあげた。
「っな!? その姿は!?」
人間の顔に隼の目と両足が鳥の足になっている女、左腕が鳥の羽根の形になっている翡翠色の髪の少年、顔と両手と両足が龍の姿をした男の姿があった。
思わず言葉を失う鬼神と黒曜の目の前で、虎雷雅が着けていた手袋を外す。若い男性の人間の手がそこにあった──。




