突入と思惑
「では参りますでございます。"陽曜転換"!」
空飛が唱え終わるとその姿が変わった。長く伸びた黒髪に金色の瞳、身に纏うは白い着物に"黒曜の羽根衣"。
「おぉ~!? 空飛ちゃん、じゃなくて黒曜完全体って感じっスかー?」
等依が訊けば空飛こと黒曜は不敵な笑みを浮かべて答える。
「ふっ……これが儂の真の力よ。では鬼憑き、参るぞ!」
「……お前、マジでキャラ変わりすぎだぜ? はっ、まぁいい。俺様達の力、見せてやらぁ!」
鬼神も気合が入ったらしい。すぐに百戦獄鬼を呼び出すと、二人は里へ突入して行く。それを見送ると、五奇と等依も行動を開始した。
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その頃。
藤波一族の里、某所にて。
「ふむ、鬼と烏がやって来たか」
奥座敷で、白髪を一つに束ねた翁が呟く。その声に感情はなく、また、両隣に並ぶ若い藤色の髪と瞳をした男女も動揺する素振りはなく、ただ静かに一点を見つめていた。そこにいたのは……。
「あははは! まさかの真正面からなんて愚策~♪ ま、いいや。ボクの獲物は一匹だけだし……。出るけど文句ない・よ・ね?」
訊いているようで、ただの宣言だ。だらしなく畳に寝転がる彼に翁が冷たく言い放つ。
「好きにするのはかまわんが、里を破壊するのだけは許さぬぞ。一すずめよ」
名前を呼ばれたことが不服だったのか、ロリータドレスの男、すずめが威圧するような声で翁に反論する。
「ボクの名前を呼んでいいなんて許可、出してないからね? 人間」
その眼光は鋭く、冷たい。だが、翁は臆することなく答える。
「それは互いであろうよ、妖魔よ」
下手をすれば一触即発のような雰囲気の中、翁の隣にいた女が口を開いた。
「おじい様、鬼と烏はどういたしましょうか? 私達で迎撃を?」
「いや、ここは"媒体者"どもを使うとしよう。実験にちょうど良いのでな」
翁の言葉ですずめが大声を上げて笑い出す。その声を聞きながら、翁が男に声をかける。
「佐乃助。行け」
「……はっ」
佐乃助はゆっくりと立ち上がると、座敷から出て行く。それに続くようにすずめも起き上がり、動き出した。
「ふふふ♪ 待っててね~? い・つ・き・く・ん?」
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「うっ!?」
突然の寒気に、五奇が身震いをする。そのことに気づいた等依が心配そうに声をかけた。
「んん~? 五奇ちゃん、だいじょーぶ?」
「あ、いやなんか悪寒が……。大丈夫です!」
五奇の言葉に等依が不思議そうな顔をしながら、
「まぁならいーっスけど……。さて、空飛ちゃんと鬼神ちゃんが正面からやってくれてる間に、行くっしょ?」
「もちろんです!」
二人が今いるのは、里の裏側にある地下水路だ。ここから、里の中へと入って行くのだ。
(ゆっくり……慎重に……)
浅く呼吸を繰り返しながら、二人は一歩一歩着実に進むのだった。




