一族が住まう里
人為的に切り開かれた山の中腹に、その一族が住まう"里"はあった。静かな森の中、鳥が二羽止まっているのが視界に入った。
「ここが藤波家……もとい、藤波一族が住まうところ……ですか」
近代技術をことごとく拒むかのように、日本建築……それも平安時代で時が止まったかのような様式の家々が等間隔に並んでいる。
里を遠くから見つめながら五奇が思わず呟くと、等依が口を開いた。
「そうっス。元々は蒼主院と対をなす退魔師の一族だったみたいっスよ?」
「それだけの一族がなんだって、こんな山奥にいんだよ? おかしくねぇーか?」
鬼神が訊き返せば、等依は困ったように首を横に振る。
「そこまではわかんないっスねー。蒼主院家次期当主の……両我くらいの地位だったら、なんかわかったかもっスけどー」
自分の家のことだというのに、他人事のように話す等依に五奇は違和感を覚えた。それは空飛も同じだったようで、
「等依さんは蒼主院家では一体どういう立場なのでございましょうか?」
そう尋ねれば、等依は抑揚のない声で答える。
「……できそこないのおちこぼれっスよ……。んー! オレちゃんの話はここでおっしまい! とゆーわけで、どうするんスかー? 五奇ちゃん?」
誤魔化し話を変える等依に、仕方なく五奇は応じた。
「……そうですね……。俺達が来るのは向こうもわかっているだろうしなぁ。でも……」
五奇が考えあぐねていると、空飛がゆっくりと手を上げ口を開いた。
「あの……。ここは囮となるというのはいかがでございましょうか?」
彼の提案に、三人が驚きの表情を浮かべる。それにかまわず、空飛は続ける。
「実を言いますと、サーシャとの一件でかなり黒曜としての力が戻っているのでございます、はい。ですので、自信があるのでございます」
「言ってもよぉ……。心許ないだろうが!」
怒気を含んだ声で鬼神は言葉を一端切ると、空飛、等依、五奇に視線をズラしていき、五奇に向かって指を突きつけながら言い放つ。
「……俺様達で囮すっぞ、前は任せろ!!」
「……! 鬼神さん……でも!」
「でもじゃねぇ! 決断しろよ、リーダー!!」
まっすぐ五奇を見つめながら彼に発破をかける鬼神に、等依が呆れた声を上げる。
「はぁ~……。五奇ちゃん、どーするよ? この二人……言い出したら聞かないっスよ、多分……」
「……そうですね。わかった! 俺も覚悟を決めたよ……。やりましょう、等依先輩!」
「うぃー。じゃあ、二人とも……無茶は無しっスよ~!?」
四人は頷き合うと、二手に別れて行動を開始した。止まっていたうちの一羽が飛び去って行くのが見え、五奇は視線をズラした。




