神の力と鬼の力
「ふむ? なるほどな! 等依よ、鋭いのだな!!」
感心すると灰児は、輝也の方を向いて、
「さて、どうする? これでは修行にならんかもしれん!」
「……そもそも、目的自体は人造妖魔だろう? 倒して良いんじゃないか……?」
まるで、自分達なら余裕だと言わんばかりの二人の様子に鬼神と等依は目を合わせる。
(んだよ? 確かに実力差はあるにしても……ムカつくぜ!)
(……なんっか、釈然としないっスねぇ……)
そんな思いを二人が抱いていることなどつゆ知らず、灰児と輝也は人造妖魔達の元へと向かって行く。
「いざ! 勝負! 火の退魔術式! 弐銘、紅蓮剛弾!」
勢いよく、炎を纏った飛ぶ斬撃を放つ灰児に続き輝也が詠唱を始めた。
「〈我が身は人にして非ず、我、神の一端を担う者。神よ、今こそ呼び降ろさん〉、アメノミナカヌシ」
「な、なんだありゃあ!?」
輝也が顕現させた全身白装束の人の姿をしたなにかに驚く鬼神に、等依が独り言のように呟いた。
「この並々ならぬ力……。神話に出てくる神様の再現?」
その声は輝也の耳に入ったようで、彼は無表情に答える。
「……さすがは蒼主院だな。その通りだ。灰児、後は任せろ……」
人造妖魔達を引き付けていた灰児にそう声をかけると、輝也が降ろした神が妖魔達の周囲に空間を作り出した。
「うむ! 妖魔達を空間に固定したのだな! これで妖魔の力は封じた! 後は、実体を探し出すだけだな!」
灰児があまりにもあっさりと告げるので、先程から置いてきぼりだった鬼神が叫ぶ。
「おい……てめぇらばっかにいい顔させっかよ! 等依! 索敵しろ! 式神ありったけばらまけ!」
「りょーかいちゃん。ありったけをばらまくっスよー」
二人のやりとりを聞いた灰児が嬉しそうな声を上げる。
「お? 実体探しの競争と行くとしようか! 良いな! 実に楽しいぞ!」
「るっせ! 競争なんざするか! 等依、大体の場所はわかったよな?」
「ういー。こっこらへん……スかね?」
等依の式神達が、ひと際集まっている茂みの中に狙いを定めると、鬼神が叫ぶ。
「百戦獄鬼! やれ! 百獄火炎爆砕破!」
言い終わったと同時に、百戦獄鬼が両腕を回転させ、思い切りその茂みもろとも文字通り爆砕した。周囲に爆風が吹き荒れる。
「ぬお!? 技を使えるようになったとは! 凄いな! うむ!」
「どこまで上から目線だ!? るっせーんだよ! インスピレーションどうもだクソ野郎!」
灰児にどこまでも反発する鬼神を見て、輝也がボソリと呟く。
「……さすがに、由毬様の妹なだけあるか……」
その声を聞きながら、等依は一人、空を見上げていた。
「……」
その目に光はなかった。どこまでも暗い瞳で、三人に視線を戻した。




