発表と
その後、五奇は妖魔に遭遇することなく、いつのまにか夜が明けていた。
「……朝か。結局何時間やってたんだろう?」
(……限界)
とうとう耐え切れず、少し休もうとした時だった。突然、あのアナウンスの声が聞こえてきた。
『お疲れさまでした。結果発表を行います』
視界が揺らぎ、気づけば最初に集まった場所に戻っていた。周りを見渡して五奇は動揺を隠せなかった。
(少ない! 聞いていたより、かなり少なくないか!?)
聞いていた定員は五十人。だが、その場にいたのは二十名ほどだった。そこには、先程の少女もおり、こちらに気づくと盛大に舌打ちをして距離を取って行った。
五奇もバツが悪そうにして、あのライトがあった中央付近に視線をやる。
しばらくして、アナウンスが響いた。
『お疲れ様でした。ここにいらっしゃる皆様は合格となります。これより、各チームに配属いたします』
無機質なアナウンスを聞きながら、五奇を含めた合格者は、案内係に従いその場を後にした。
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案内されたのは、車で移動すること数十分の所にあるトクタイ本部の一角、白い無機質な壁と窓があるビルの七階の一室だった。
中に入ると、トクタイの隊服を着た二十代くらいの女性が待ち構えていた。
深紅のボブカットが特徴的なその女性は、入室してきた五奇を含めた四人を見て口を開いた。
「とりあえず歓迎するとしよう。私が貴様らの担当教官、齋藤朱月だ。以後よろしく頼む」
強い口調で言われて、五奇は困惑しながら残りの三人を順番に見る。一人は黒髪の端正な顔立ちの歳の近そうな少年、一人は銀髪に赤と青のメッシュが入った髪が特徴的な少し上くらいの青年、そしてもう一人はあの少女だった。
(なんか、気まずいな。そして、これから彼らとやっていけるのか……? 特にあの女子と……不安だ)
そんなことを思っていると、齋藤から厳しい言葉が飛んできた。
「いいか貴様ら。合格はしたがな、配属はEチーム。つまり、"おちこぼれ"ということだ! 優秀な連中はもっと上にいるということを忘れるな! そして、覚悟しろ!」
今回入隊するのは"九十四期生"。基本的にチームはAからEまで能力に応じてランク付けされており、Aが最優秀で、Eが合格ラインギリギリ。つまりは齋藤の言う通り、"おちこぼれ"なのだ。
(合格はできても"おちこぼれ"か。そうだよな……むしろ三年でここに来れたのが奇跡なんだと思おう)
「さて、それでは各自、名と能力と所持武器について話せ。モタモタするな!」
せかすような齋藤の口ぶりに、銀髪の派手な青年が見た目とは裏腹にゆったりと口を開いた。
「んじゃ~まずは、オレちゃんから行くっスね! 名前は蒼主院等依、十九さ~いの能力は式神使いっス! つ~ても、簡易的な式神と~基本である二対の"鬼"しか使役出来ないっス! ちな、鬼の名前は火雀応鬼と氷鶫轟鬼つーて、武器もコイツらっス! よっろ~」
彼、等依の口調に自然と場が凍ったが、当の本人は全く気にしていない様子で次を促してきた。
「次は誰っスか~?」
五奇は自分が名乗るべきか悩んだが、先に黒髪の少年が手をあげた。
「じゃ、じゃあ僕で失礼いたします。名を夜明空飛と申します。年齢は十八歳でございます。能力は"半妖"でして、武器は祓刀の翅剋と、妖刀の羽刻という二対の短刀でございます。よろしくお願いいたします」
丁寧過ぎる口調と半妖という単語に、五奇は動揺してしまった。というのも、半妖とは"なんらかの理由で人間でありながら妖魔でもある存在"で、かなり数が少ないとルッツから聞いていたからだ。
(まさか出会うなんて……。もしかしてあの女子もそうなのかな?)
五奇が訝しげに少女を見れば、彼女も五奇を睨みつけながら、自己紹介を始めた。
「俺様は鬼神乙女だ。乙女って呼んだら殺す。年齢は十七だが……舐めんじゃねぇぞ。能力は"鬼憑き"。武器はその鬼、百戦獄鬼以上」
鬼神の言葉に五奇は首を傾げた。
(鬼憑きってなんだ?)
聞いたことのない単語だ。訊いてみようか迷っていると、
「おい、横取り野郎! 次はてめぇだろうが!」
不名誉な呼び名と指名をされ、五奇は困惑しながら自分も名前などを答える。
「五十土五奇です。能力は祓力で、武器は参弥と輪音という銃剣です。あ、年齢は十八です。よろしくお願いします」
こうして、五奇の退魔師としての人生が始まった。