落としどころ
"黒曜"の言葉にサーシャが初めて動揺を見せた。そのスキを突いて、動く。
「はっ!」
「平穏を望むなら、くれてやろう。儂の……僕がその力を引き継いで!」
"彼"はサーシャの首筋に思い切り噛みついた。驚きのあまり動けないサーシャの身体を蔦で固定する。数分後、黒曜としての"力"ごとサーシャから"彼"は離れた。
「うっ……うぅ……力が! 力が全て持っていかれるだなんて……! いいさ、いいさいいさいいさ! 殺せよ! 殺しておくれよ!」
わめき散らすと、サーシャは地面に大の字で寝転がる。その様子を見た"黒曜"は、空飛へと戻りながら訪ねる。
「忘れたのか? なぜ、黒曜が妖魔としての生をやめ、転生したのかを。記憶があるのでしたら、おわかりになるでしょう。人を愛したからでございますよ?」
それは、黒曜なりに選んだ愛の形だ。力が強すぎて、転生する際に魂を分割する結果になったのは想定外だったが。
そのことを理解したのか、サーシャは涙を流し、訴える。
「だからこそさ! だからこそ……愛してくれない人間共が許せなかった! 僕はこんなにも愛しているというのに! 報われない! 愛されない! それが辛くて、恨めしくて、悲しくて! だから!」
「だからと言って、殺して良い理由にはならないのでございますよ。……僕は片割れを愛しましょう。魂を別けた家族としてね?」
空飛の言葉に、サーシャが目を見開いた。
「元が同じなのでございますから、家族と言っても差し支えはないでございましょう? まぁもちろん、罪は償っていただきたくぞんじますが」
どこまでも優しい声色に、サーシャは今度は別の涙を流す。その様子を見て、空飛はサーシャを強引に抱き上げた。力を奪われたことで、物理的にサーシャが動けないことに気づいたからだ。
突然のことに、激しく動揺するとサーシャは叫ぶ。
「な、な、な!? 片割れだからって、何してもいいとか思ってるわけ!?」
「えっ? ダメなのでございますか? っていうか、物凄く軽いでございますね……まるで女性のよう……」
「えっ……なんで女ってわかったの……?」
空飛にとって、今日何度目かわからない衝撃が走った。
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大人しくトクタイの隊員達に捕まるサーシャを見送りながら、空飛と五奇は怪我の手当を受けていた。
「さすがの私も、この展開は予想できなかったぞ? まぁ及第点をやろう。貴様らにしてはだがな……」
駆けつけた齋藤にそう声をかけられ、どんな顔をしていいのかわからなくなる四人に齋藤は続ける。
「……とにかく! 被害は深刻だ。立て直しを計るためにも、怪我や祓力の回復のためにも、貴様ら全員休暇とする! いいか! しっかり休め! や・す・め・よ!」
鬼の形相で言われた四人は、無言でうなずいた。その様子を確認した齋藤は、
「よし! では全員、家まで送ってやる! 五十土五奇! 病院がこの有り様なのでな、自宅療養とする! 以上! 行くぞ!」
こうして四人は休暇という名の療養を命じられたのだった。




