疑問と望み
「とりあえず、五奇。てめぇそれ解除しろ」
鬼神に声をかけられ、五奇はようやく円盾を解除した。途端に疲れがどっと出て、思わず床に膝をつく。
「うっ……」
「五奇ちゃん!?」
慌てて等依が五奇の身体を支えた。
「ありがとうございます、等依先輩。俺のことよりも……空飛君が!」
空飛もとい黒曜とサーシャに視線を移せば、二人はエントランスのガラス窓を破壊して、中庭で戦っていた。
「割って入ろうにも、ヒートアップしていて入れねぇ……」
鬼神が悔しそうに言えば等依が静かに答える。
「いや……あれは仕方ないっスよ。互いに分割された魂が引かれ合ってるって感じじゃん? その間に入っていーもんなんスかね?」
そもそも論に、五奇もなんと返していいのかわからない。三人はとりあえず、見守ることしかできなかった。そんな中、鬼神が小さく呟いた。
「てかよ、今思ったんだが……。退魔術式の大元って陰陽道だよな?」
「んん? 鬼神ちゃん、話が飛んでてわっかーんねぇっス」
等依に訊き返され、鬼神が再度ゆっくりと口を開いた。
「陰陽道って確かよぉ陰と陽でバランス取るとかなんとかなかったか? ……それに当てはめるとよ、黒曜って男と女とか……その、要は陰と陽で魂分割したとかねーか? ならよ……黒曜は男だったのか女だったのか? そもそも性別あったのか? って思ったんだよ」
「……確かにー! 妖魔って性別あるタイプとないタイプいるっスわー」
二人の言葉に五奇が困惑したように訊く。
「えっ? じゃあ、空飛君は男だけどつまり……?」
「……いずれにせよ、片割れだのなんなの言うってことは、そういう可能性もあるんじゃねーの? なら……」
一端そこで言葉を切り、再度呟くように鬼神が続ける。
「あのサーシャとか言うヤツ、男と女どっちなんだろうな?」
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「あはははは!」
「儂の怒りを受けよ!」
黒い蔦同士が激しくぶつかり合う。その衝撃で中庭の草木は揺れ、突風が吹く。
「あれあれあれ? どうしたのかな、僕? こんなの痛くもかゆくもないよ?」
「これが儂の本気と思うてか!」
そう口では言うものの空飛であり、黒曜である彼は内心で焦っていた。
(おかしい! 全盛期の力には及ばぬ! なんだというのだ?)
サーシャを憎らしげに睨みつけながら、彼はようやくある可能性に辿り着いた。
(そうか! "負の感情"と"力"があの小僧めにいっておるのか!)
"正の感情"と"知識"が空飛に、"負の感情"と"力"がサーシャに。力が分割されたことで、制御も本来の力も出せない……そのことに思い至った"黒曜"は、必死で知識で対抗しようとする。
「どうしたのさ! さぁ、どんどん来なよ!」
なおも攻撃の手を緩めないサーシャを見て、ある事を試すことにした。
「ん? 本当にどうしたのさ? 蔦を動かさなくなって……」
「小僧に問いたい。望みはなんだ?」
そう訊かれたサーシャは、不思議そうな顔で答える。
「……どういう意味さ?」
すると、"彼"はハッキリと告げる。
「言葉の通りだ。何が欲しい? 言ってみろ。可能な限り、叶えてやるぞ?」
まるで宣言するかのように。




