襲う者と逃げる者
等依達が孤児院へと車を走らせて一時間。
病室のベッドの上で、五奇はノートパソコンと向き合っていた。
「えーっと、空飛君は両親が不明で物心つく前から児童養護施設、明日楽木にいた、っと……」
等依達から送られて来るデータを、五奇が次々と入力していく。
「んで、五歳の頃に自分が黒曜の転生体であると理解した、か。……親がわからないって、俺だったら、寂しいな」
家族が好きな五奇にとって、空飛の境遇は辛いものに感じられた。もちろん、人の数ほど過去があり、感じ方も違うのは頭ではわかっているが。
「……俺達が、空飛君にとって、家族みたいになれたらいいのにな」
一人で呟いた瞬間だった。
「へぇ? キミは僕をそう思うんだね?」
一陣の風とともに、黒い羽根衣を纏った白い髪の、空飛と気配がソックリな少年が現れベッドに腰掛けている五奇に声をかけた。
「なっ!?」
驚きながらも、痛む身体を引きづりベッドから這い出た五奇は、強い殺気に緊張感を高める。
「カンが鋭いじゃないか。いいね、僕は随分と楽しい人生を歩んでいるんだね……あぁ、羨ましいなぁ。うらやましい、な!!」
傷が痛んで回避行動が上手く取れない五奇に向かって、白髪の少年はナイフを懐から出して刺そうとしてきた。
「くぅ!」
それをギリギリでかわすと、馬乗りになろうとする少年を全身の力を使って突き飛ばし、病室から脱出する。出た瞬間に、警備員が駆けつけてくれた。
「おやぁ? すごいな僕は。こんなに美味しそうな人間達と、お友達だなんて。僕と違っていて……どうしてだろうね?」
「さっきから聞いていれば、なんなんだよ! 僕が僕とかさ! 通じるように話せよ!」
五奇が身体を支えながら声を絞り出すように言えば、少年は不思議そうな顔をして答える。
「ん? 意味がわからないな。僕も僕も、同じ黒曜なんだよ? なら同じじゃない?」
少年の言葉に、今度は五奇が驚く番だった。
「はっ?」
思わず間抜けな声をもらせば少年は小さく笑い、
「じゃあ見せてあげるよ! 黒曜の力をさぁ!」
そう言うと、羽根衣がふわりと動き出し、黒い蔦のようなものが現れる。そして――。
「黒き羽根の円舞」
「なっ!?」
空飛がなる黒曜と同じ技に、五奇は動揺を隠せない。その隙に少年は警備員を蔦で襲い、腹部を刺した。
「あ、あ、あ、ああぁぁぁぁぁ!!」
目の前でうずくまって動かなくなった警備員を見て、五奇は怒りのままに少年に殴りかかる。だが、あっさりとかわされてしまい、五奇を黒い蔦が襲った。
「くっ! 殺られてたまるか!」
五奇はその場から逃げる決断をした。武器もない手負いの身体では無理だと判断したからだ。
「逃げるんだ? じゃあ、鬼ごっこ開始だね!」
どこまでも愉しげな少年の声が響く。それがどうにも五奇は赦せなかった。




