白状
その頃、某所にて。
「全く。李殺道とか言ったかね? 困ったものだねぇ」
暗くなった街明かりを見つめながらそう呟けば、背後から返事が帰って来る。
「いかがされますか?」
「ここはトクタイの若手に期待しようじゃないか。鬼憑きが反応したってことは、ただの人間じゃないんだろうしね?」
「では、そのように」
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その日の夜。
等依の部屋の床で布団を引いて寝ていた空飛は、またあの夢を見た。今度はより鮮明に。
――鮮血に染まる両手。
――動かなくなった自分を虐めた連中。
――僕は、その光景がたまらなく気に入った……。
――だから……。
「違う! それは僕じゃない!! 僕は、儂はそんなもの望んでなど!」
大きな声を張りあげて起き上がれば、自身のベッドで寝ていた等依が心配そうな様子で空飛を見つめていた。
「空飛ちゃん? どーしたんよ? めっさ、うなされてたっしょ?」
声をかけられ、答えようとした瞬間。ノックもせずに鬼神が室内に入って来た。
「どうした!? すげぇ声が聴こえたぞ!?」
最近の鬼神は、仲間を気に掛けるようになった。それはいい傾向なのだが。
「あの……鬼神ちゃん? せめてノックはしてほしーんだわ……」
「んなこと言ってる場合か! おい空飛、てめぇどうした!? 言え!」
鬼気迫る鬼神の勢いに圧され、とうとう空飛は白状することにした。自分には黒曜の記憶があり、それに起因してそうな悪夢を見ることを。
ひと通り話を聞いた等依と鬼神は、二人して黙り込んでしまう。あまりにも予想外だったからだ。しばらくして、口を開いたのは鬼神だった。
「バカ野郎が……。そんな大事なもんを抱え込んでんじゃねーよ! 明日、五奇にも話すからな? ……一応、リーダーだしな」
(ここでデレてどーすんスかね?)
内心で突っ込みながらも等依は頷き同意すると、空飛の背中を軽く叩く。
「ま、そーっゆーわけで! 寝れないんなら、いっそゲームでもしちゃったりとか?」
「いや、そこは寝ろや!」
鬼神に怒られた二人は、苦笑しながら再び眠りにつくのだった。
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翌日。
「な、な、なっ……なんだってぇ!?」
病室内に空飛の事情を聞いた五奇の大声が響き渡る。
「前世の記憶が丸っとあるだって!? そんな大事なこと、なんで黙ってたんだよ! ってあいたた……」
「そんな大声出すかーらよ? 気持ちはわかっけど、どーどー」
等依に背中をさすられながら、五奇は涙目で空飛を見つめる。
「はぁ……。とにかく、そういう事情ならあのドッペルゲンガーの話も、悪夢のことも、どうにかしないとじゃないか。うーん、教官にこのことは?」
「とりあえずてめぇに話してからにすることにした」
不貞腐れたように言う鬼神の言葉で、五奇はある決意をした。
「教官に話したうえで……許可をもらえればだけどさ。調べてみようよ!」




