もう一人の自分
「種族の違い……ですか?」
五奇がそう訊けば、等依は深く頷いた。
「そそ。鬼神ちゃんの鬼、百戦獄鬼は、鬼神ちゃんと精神で繋がっている……うーんと、詰まるとこ、本当にもう一人の鬼神ちゃんみたいな?」
そこで言葉を切ると、等依が少し声のトーンを落として続ける。
「んで、オレちゃんの鬼、火雀応鬼と氷鶫轟鬼は、対等な契約の元で繋がりを持った……そーね、イメージ的に精霊とかに近いんかな?」
「えっと、つまり……。鬼神さんの鬼は鏡に映った自分みたいなもの?」
五奇がそう解釈すれば、等依は再び頷き、
「そーゆーこと。ってか、急にどーしたん?」
怪訝そうに訊かれ、五奇は思わず視線を逸らす。まさか、鬼神に膝枕されたことを思い出したついで……とは言えるわけもなく、五奇はどう答えたものかと悩んだとき扉がノックされた。
「今入ってもよろしいでございましょうか……? あ、僕でございます。夜明空飛でございます。はい」
五奇と等依は顔を見合わせると、互いに深く追求せずに空飛に同時に声をかけた。
室内に入って来た空飛の顔色は優れない。「本当にどうした?」と二人が心配した瞬間、空飛が珍しく声を張り上げた。
「僕! ドッペルゲンガーを見たかもしれないのでございます!!」
その言葉に五奇と等依は困惑して、思わず固まってしまった。
「えっ……?」
「空飛ちゃーん? ゲームのし過ぎっしょ?」
二人がそう言えば、空飛は大きく首を横に振り、
「違うのでございます! と、とにかく話を聞いて下さいませ!」
そう懇願されてしまえば、二人は受け入れるしかない。仕方なく、空飛の話を聞くことにした。
****
それは昨夜のこと。
空飛が自室で眠っていた時、それは現れた。
『ねぇ……僕? そろそろ……出会おうよ?』
空飛が目を開けると、そこには白い髪の自分がいた――。
****
「ということなのでございます。はい」
空飛の話が終わると、五奇と等依は困惑の色を濃くする。正直、話が飛躍しすぎていたからだ。
「あー……空飛君? 大げさなんじゃないかな?」
「そーっスよ。考えすぎっしょ~」
二人に言われても、空飛は主張を変えない。
「いいえ! いいえ! あれは絶対、ドッペルゲンガーでございますよ! 僕は、し、死んでしまうのでございましょうか!?」
とうとうそんなことまで言い出す空飛を、二人でなだめると等依が、
「そいじゃー、空飛ちゃん今夜はオレちゃんとこでお泊りしちゃう~なぁーんて?」
そう冗談めかして訊けば、空飛が顔を明るくする。
「ありがとうございます! そうさせていただきたくぞんじます! はい!」
「マジか」という等依の小声が聞こえなかったのか、空飛はそうと決まればと等依の背中を押して行く。
「それでは五奇さん、お大事になさってくださいませ! 失礼いたします!」
慌ただしく病室を後にした二人に向けて、五奇は手を振りながら、
(もう一人の自分、か。鬼神さんみたいな感じでもないんだろうし、考えすぎだよなぁ)
深く考えるのをやめ、ベッドに横になった。




