お兄さん
「ん~着替えはこんな感じっスかね~?」
五奇の部屋で適当に着替えを用意した等依は、詰め込んだ荷物を持って立ち上がろう――として、少しよろけてしまった。
「と~? ダメージきてんな……」
一人そう言ったつもりが、聞こえていたらしい。省エネモードである雀の姿をした火雀応鬼がすり寄ってきた。なお氷鶫轟鬼は完全に休眠モードに入っている。
「火雀~。相方やられて辛いっスよねー」
そう声をかければ、火雀は等依の肩に乗る。その姿に微笑むと、等依は気を取り直して荷物を持ち五奇の部屋を後にした。
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家から五奇が入院している病院までは距離がある上、荷物のことも考えて等依は車を出すことにした。車庫に行くと、そこである人物に等依は声をかけられた。
「やぁ、等依君?」
ゆっくりと声をした方へ視線を向けると、等依はため息を吐きながら声の主に対して尋ねる。
「そーゆーお兄さんは、五奇ちゃんのおししょーさんっスね? いや、それとも……一番目のお兄さんって呼んだ方がいいっスか?」
等依がルッツにわざとらしくそう訊けば、彼は柔和な笑みを崩さずに答える。
「そう睨むことはないだろうに。お兄さんなんて呼んでくれるんだったら、尚更じゃないのかい?」
「べっつにー? まさかアンタが五奇ちゃんの師匠とは思わなかったっス。それも、なんで"ルッツ"なんスか?」
「だって、音の響きがかっこいいだろう?」
"ルッツ"の答えに等依は呆れた様子でしばらく閉口した後、ため息交じりに口を開いた。
「……はぁ、まーいっスけど。かんけーねぇし……?」
「そう言わないでおくれよ。君には君の道があると前にも言っただろう?」
「つーわれてもねぇ。稀代の天才に言われても説得力皆無っしょ」
そんなやり取りをしながらも等依は荷物をさっさと入れ、車を出す準備を整える。
「じゃ、まぁーそーゆーことで。お兄さん、いやルッツ先生まったねーん」
わざとらしくそう言うと、等依は車を今度こそ出した。その様子を焦るでもなく、ただ見送るとルッツは、
「……あの日君に言ったことは本当さ、等依君。君には君の道がある。蒼主院に縛られることなんてないんだよ……」
そう届かぬ言葉を口にするのだった。
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「さってとー五奇ちゃん、ヤッホー?」
「等依先輩! 待ってたんですよ!」
病室に入るなり、五奇に声をかけられ等依は思わず目を丸くした。
「……にゃーに?」
訊き返せば、五奇は等依に真剣な眼差しを向け、食い気味に訊く。
「等依先輩の鬼と鬼神さんの鬼、なんの違いがあるんですか!?」
問われた等依は思わず頬をかくと、考えながら答える。
「んん~? 違いねぇ……そうっスね……。例えるなら、犬と猫くらいみたいな?」
あまりピンと来ない例えに五奇は困惑し、それに気づいた等依は言葉を変える。
「えーっと、つまり、人間と共生するんは変わらないけど、種族が違うってことっスよ」




