各自の想い
五奇の病室を出た鬼神は、ロビーで笑い転げている空飛を蹴り飛ばし、頭に手を乗せている等依と視線を合わせる。
「おい、等依。てめぇも万全じゃねぇんだろ? アホはほっとけ」
鬼神にそう言われ、等依は苦笑いを浮かべる。
実を言うと、無知性妖魔を封印する際、帰りの状況などを考慮して等依がメインで祓力を使い、封印を施したのだ。故に、力をかなり消耗した等依の体調はあまり良くはない。
「にゃはは~、ありがとうね~ん。でも、鬼神ちゃんもっしょ? 鬼の制御に成功したっちゅーことは、相当消費したんじゃないっスか? 祓力」
そう逆に訊き返された鬼神は、
「……五奇達に比べりゃマシだ。けっこう寝たしな」
「あー……。まぁそうっスね。五奇ちゃんといい鬼神ちゃんといい。李殺道? にボロボロにされたっしょ。割と怒っスよ? オレちゃん」
そう言うと等依は、「五奇ちゃんの着替え取って来るっス~」と言って病院から出て行ってしまった。その後ろ姿を見つめていると、ようやく笑いが納まったらしい空飛がやって来る。
「おや? 等依さんはどこかに行かれたのでございますか?」
「……五奇の服取りに行った」
鬼神の回答に満足したらしい。空飛は自販機の方向へと向かって行ってしまった。一人残された鬼神は、少し迷ってから、家に戻ることにした。
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「はぁ……」
病室で寝転がっていた五奇は、深いため息を吐いた。身体が痛むのもあるが、それよりも、全く歯が立たなかったことが辛い。
「アイツ……。報告書で読んだけど、李殺道か。めちゃくちゃ強かった……。手加減されて、これかよっ!!」
思わず声を荒げても、室内には五奇一人だ。もう一度ため息を吐いて、身体の向きを変えるとあのぬいぐるみが目に入る。
「マジでこれ、なんなんだよ……。女子のセンスはわかんないなぁ」
そう言ってぬいぐるみに触れれば、嫌でも鬼神のことを思い出す。
「……」
(別に? いい匂いがしたとか、思ったより柔らかい身体とか? 思って……思ってるけど! しょうがないじゃないか!)
まさか彼女が自分を膝枕をするとは思っていなかった。それどころか、
(しかも名前呼びとかさ! なんだよ!? 今までマトモに呼ばなかったのにさ!)
予想外の出来事すぎて、混乱してしまう。なんとか思考を切り替えようと、別のことを必死に考え出す。
「えっと、えっと。あ! そういえば、鬼神さんは百戦獄鬼の制御できるようになってたな……。これで、等依先輩達みたいに上手く付き合って……あれ?」
そこでようやく五奇は気づいた。
「等依先輩の鬼達と、鬼神さんの鬼って……どう違うんだ?」




